『深夜徘徊のための音楽 beats to relax/stray to』はPlastic Tekkamaki Manufacturingが制作したフリーのデジタルノベルだ。
兄妹が深夜の街を歩きながら、なんでもない会話をかわす。ひとクセあるトークと深夜の空気感を反映したサウンドが心地よい作品だ。
この記事では3つのポイントを上げながら、『深夜徘徊のための音楽 beats to relax/stray to』をレビューする。
ジャンル | デジタルノベル |
制作 | Plastic Tekkamaki Manufacturing |
プラットフォーム (リンク) | PC(Windows) ブラウザ (配布サイト) |
プレイ時間 | 50分 |
- 深夜の空気感が好きな人
- リラクシングな音楽が好きな人
あらすじ
記者の新(あらた)は過労で倒れて仕事を辞め、実家に戻った。現在は部屋に引きこもり、オカルト記事を書いている。
新は大学生の妹・括弧(かっこ)から呼び出され、久々に外出することにした。
目当ての店が閉店していて予定どおりに行かなかったが、実家に戻り、括弧の手料理を食べて眠りについた。
嫌な夢から目を覚ました午前2時。括弧からレンタルDVDを返すのについてきて欲しいと言われ、2人で深夜の街を歩き出す。
不思議な浮遊感に引き込まれる描写
人通りのない深夜の街の空気。この世界にいるのは自分だけかのように錯覚する。
寝静まった街に響く小さな音で現実に引き戻される。
深夜の澄んだ空気のおかげで、とりとめのない会話でも特別なものに思える。
静寂の中で2人の会話を邪魔するものはなく、会話は自由自在に広がっていく。
散歩の間に数回、自転車の男が現れる。直接関わりはしないが、彼の咳の音が2人を現実に引き戻す。
世界に兄妹二人きり……とはならない。二人の心の距離が一瞬近づいたかと思いきや、また離れていく。そんな、いま一歩素直になれない心模様を反映しているようだ。
深夜の特別な空気が薄れて、サッと現実に戻る感じ。現実と空想の間をふわふわと彷徨っているようで心地よい。
途中で寄るコンビニの描写も良い。
「とっくに化粧を落としたOL、日用品をわざわざコンビニで買い集める老人……」
そこにどうしても必要なものを買いに来る人はいない。みんな、さしたる目的もなくふらふら集まってきた人ばかりだ。
筆者も深夜のコンビニのゆるい空気が好きだ。
深夜に静かな環境でプレイするのがおすすめ!
相手を信頼しているからこその”変化球”トーク
2人は早くに両親を亡くし、支え合って生きてきた。
括弧は高校生のころから新を頼らずに自立する道を選んだ。兄の呼び名をいろいろと試し、関係を模索したなかで、現在のほどよい距離に落ち着く。
括弧は一言で言えばめんどくさい性格だ。括弧から投げかけられる会話は、偏屈で、生意気で、真実と嘘の境界が曖昧だ。
作中では2人の会話をキャッチボールに例えている。括弧が繰り出す変化球を新はこともなげにキャッチして投げ返す。
どんな軽口も毒舌も嘘も兄には受け止めてもらえると分かっているから安心して投げられる。
兄妹は決して言葉にしないけれど、そこには信頼関係がある。
クリア後にリプレイすると括弧がちょこちょこと探りを入れていたことが分かり、またおもしろい。
吉田類、アラン・ムーア、外山滋比古の話ができる妹、欲しいわー
配布サイト・ノベルゲームコレクション上では本作に「都市伝説」のタグが付けられている。
- 90年代の冬に地元で起こった”犯行声明文”つきの殺人事件
- 新が創作した「異世界に連れて行かれるタクシー」
- 括弧が語る「女の前で客を公開処刑した工場」
上記3つが作中で語られる都市伝説だ。緩んだ空気をピリッと引き締めるスパイス的なもので、さほど怖くない。グロテスクで直接的な描写はなく、ホラーが苦手なプレイヤーでも問題ないだろう。
クールなビジュアルと心地よいLo-Fiサウンド
本作ではレトロなデザインが目を引く。
ファミコン時代のアドベンチャーゲームを彷彿させる画面はノスタルジックだ。
場面ごとに変化する左上のフレームにはスクリーン加工をした写真のような写実的な景色が映し出される。
右に出ている括弧のビジュアルとリアルでクールな景色にギャップがあっておもしろい。
本作で重要な要素を占めるのが音楽。
ユルめなLo-Fiサウンドは深夜の空気に完全に溶け込み、リラックスできる。
シーンによってはBGMと虫の音などの環境音を巧みに馴染ませている。
音数が抑えられていて耳が疲れない。プレイヤーにそっと寄り添い、深夜の雰囲気を高めてくれる優れた音楽だ。
テキストと音楽が調和していて最高!bandcampで聞きまくってる!
総合評価
総評:傑作
5/5
『深夜徘徊のための音楽 beats to relax/stray to』は優れたデジタルノベルだ。
兄妹のクセのある会話と深夜の空気感、ユルめなLo-Fiサウンドが混ざり合って唯一無二の世界観を生み出す。
会話は愛嬌のあるものではないが、軽口を叩き合う兄妹の根底にある絆が感じられ、微笑ましくやさしい気持ちになれる。
深夜の空気を感じたいすべての人におすすめしたいタイトルだ。
- 深夜の空気感を絶妙に描写したテキスト
- 兄妹の関係性を映し出すテキスト
- ユルさハマるLo-Fiサウンド
- 特になし
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