『雪割りの花』は「やるドラ」シリーズの第4弾にあたる、シリーズ史上一番の鬱ゲーだ。
主人公は隣人のOLに恋した大学生。ほんの少しの下心からついた嘘をきっかけとして、精神が壊れていく。
《見るドラマからやるドラマへ》をコンセプトにしたシリーズ。アニメーションを多用しているのが特徴。
この記事では、4つの評価ポイントからPS版『雪割りの花』のレビューをお届けする。
舞台は北海道!(言及されていないけど、おそらく函館)
ジャンル | 恋愛アドベンチャー |
発売元 | SCE |
開発元 | Production I.G シュガーアンドロケッツ |
プラットフォーム | PlayStation PlayStation Portable |
発売日 | PS1:1998年11月26日 PSP:2005年7月28日 |
- 鬱ゲーが好きな人
- 胸クソを好む、ドMな人
登場人物紹介
主人公
一人暮らしの大学生。
アパートの隣りの部屋に住む花織に想いを寄せている。
桜木花織
25歳のOL。
札幌に住む商社マン「伊達 昂(たかし)」と付き合っている。
飼っている文鳥が逃げ出したのをきっかけに主人公と知り合った。
小林勇一
昂の幼馴染&同僚。
花織と主人公の行く末を案じている。今作一番の常識人。
あらすじ
主人公は気乗りのしない合コンを抜け出し、帰宅した。
アパートの階段を上るとそこには部屋の前で口づけを交わす隣人・花織の姿が……。
翌日の深夜、主人公はドアのチャイムの音で目を覚ました。ドアを開けるとそこには警察官が立っていた。
警察官から花織が倒れて病院に運ばれたことを聞かされ、主人公はいても立ってもいられず、病院に向かう。
花織は、恋人の死を知らされたことをきっかけとして記憶を失っていた。
主人公が献身的に花織の世話をしていると、花織は一部の記憶を取り戻したが、おかしなことを言い始める。
「あなた、もしかして昂?昂なのね」
プレイヤーは主人公と罪悪感を共有する「共犯」となる
『雪割りの花』はプレイヤーに大きな罪悪感を与えるゲームだ。
恋人の死を受け入れられず、記憶喪失となった花織のために、主人公は彼になりきる。
初めは花織の勘違いからであったが、誤解をあえて受け入れたのは主人公の意思だ。
主人公は嘘を本当に見せかけるため、努力をいとわない。
- 昂が強いタバコを吸っていたと聞けば、無理矢理タバコを吸う
- 隣人の大学生(自分)を思い出させないために、外出にも細心の注意を払う
- 金銭的な余裕を作るためにバイトにも精を出す
どんなに努力をしても、その結果として花織から愛を向けられる対象は「昂」であって、主人公ではない。
デートしていても、キスを求められても、誕生日を祝われても、花織の目の前にいるのは「昂」だ。
主人公は徐々に罪悪感にさいなまれる。それが昂の誕生日を祝った夜に見た夢に現れている。
花織が高いところから身を投げる、ショッキングな夢だ。
そのとき、プレイヤーもまた、主人公を通して罪悪感に苛まれる。主人公とプレイヤーは共犯関係になるのだ。
少しの下心が結果として、絶望を生み出す。これはもうホラー。
このゲームは倫理的に重大な問題あり! 女性の立場からすると1から10まで胸クソ悪いわ!!
3つのグッドエンドが1つのエンディングを紡ぐ
『雪割りの花』には5つのグッドエンドがある。
そのうち3つは別個のエンディングだが、実は1つにつながっているように思う。
3つのエンディングを時間軸に並び替えるとそのまま後日譚として成立するからだ。
エンディングNo.順から時間軸に並び変えてみる。
- 雪解け
- 夕暮れ
- 雪割り草
- 雪割り草
- 雪解け
- 夕暮れ
雪割り草では、花織がすべてを思い出し、数日後に2人で昂の墓参りにいく。
雪解けは、花織が記憶を取り戻してから半年後、たびたび主人公の部屋に遊びにくるようになる。
夕暮れでは、花織がすべてを思い出してから2年後、就職のために上京する主人公と一緒暮らすために共にアパートを出る。
記憶を取り戻した直後の花織は、昂を亡くしたショックと主人公の嘘を受け止めきれなかった。
それから時間をかけて徐々に主人公の気持ちを理解し、心を開いていく。
3つのエンディングを1つにまとめると、プレイヤーが救われるエンディングの全体像が見えてくるのだ。
すべてを一気に描かれると白々しいが、2人が心を通わせていく過程が少しずつ見える仕組みなのはよかった。
私が最初に到達したエンディングは「夕暮れ」だったため、2年後とはいえ、2人が突然上京する流れに、都合良すぎない?と思ったことは秘密。
やたらと細分化されて膨れ上がったバッドエンド
『雪割りの花』のバッドエンドはここまでの「やるドラ」シリーズ史上最多の32個。
しかし、こんなにも多くのバッドエンドは必要なかった。
たとえば、花織の居場所を探すのに手間取って、取り返しがつかなくなるエンディングが複数あることにそれほど意味を感じない。
その場面がどうであれ、主人公と花織の運命は変わらない。そこにバリエーションは必要なのだろうか。
もちろん、存在意義のあるバッドエンドもある。
- 「混乱」……主人公が精神的におかしくなり、自らを昂を思い込んでしまう
- 「逃亡」……主人公が良心の呵責に耐えられなくなり、逃げ出す
など、主人公の精神状態がいかに厳しいものなのかを明示するバッドエンドは欠かせない。
しかし、主人公が選択肢のA、Bどちらを選んでも結局、花織は死を選ぶ、といった微細な違いでエンディングを分けるのは、プレイヤーがエンディング集めの作業をさせているように感じられる。
32個もバッドエンドを作るよりも印象的なものだけに数を絞ったほうが、よりインパクトのあるプレイ体験になったはずだ。
他のやるドラシリーズがプレイ時間5~6時間だったのに対して、『雪割りの花』は10時間。そのうちほとんどがバッドエンド回収だった。
過去作と一線を画す不思議な魅力を持つキャラクターデザイン
『雪割りの花』のキャラクターデザインは今までの「やるドラ」シリーズから大きく変更されている。
過去3作がかわいい系だったのに対して、今作ではリアル志向になった。
人物の描き込みが細かいわけではなく、むしろシンプル。
一見すると能面のようだ。
ところが、能面も見る角度によって表情が変わるように、シンプルな線画であっても微妙な表情の描き分けがされており、これが妙にリアリスティックに感じる。
トラウマになるシーン
一番印象的なのは3月31日、記念日の贈り物をきっかけとして、花織が全ての記憶を取り戻すシーンだ。
昂が生前に手配していたプレゼントに添えられた手紙を見て、花織は主人公が住む隣りの部屋を訪れる。
そして、すべてを思い出す。このときの表情には絶望と嫌悪感がよくあらわれている。
悲鳴を上げ、その場から逃げ出す花織と、部屋に取り残され、打ちひしがれる主人公。
人物の動きや表情がとてもリアルだ。
通話中に背後のドアがキィーと音を立てて開く、このときの恐ろしさ、絶望感はまさにサイコホラーだ。
リアルでシンプルなキャラクターデザインだからこそ、演出が引き立つ。
最初は変わったデザインだと思っていたが、気がついたらこのキャラクターデザインを魅力的に感じていた。
キィーとドアの音がして、主人公がゆっくり振り返るシーンに震えた! その後、変に首を傾げたまま固まっている表情もコワイ!!
総合評価
総評:まずまず
2.5/5
『雪割りの花』は主人公とプレイヤーが罪悪感を共有するアドベンチャーだ。
記憶が混乱している花織を欺き、わずかな下心から他人になりすました主人公の罪は重い。
その代償として花織の愛情を感じるたびに、それが自らに向けられたものではないと実感させられ、主人公もまた精神的に追い詰められていく。
主人公が身を滅ぼす過程は丁寧に描かれており、プレイヤーも罪悪感を共有する。
胸クソを好む、ドMなプレイヤーにおすすめのタイトルである。
- 主人公と罪悪感を共有するシナリオ
- リアルでシンプルなキャラクター造形
- とにかく多いバッドエンド
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