『和階堂真の事件簿 TRILOGY DELUXE』は刑事である和階堂が事件に挑むミステリーアドベンチャーゲームだ。
本作には難解な謎解きはなく、物語を味わうことに重点を置かれている。本格推理小説の雰囲気を味わいながらも気軽に遊べる作品だ。表情がつかめないドット絵のビジュアルやハードボイルドの気配を感じさせる音楽も見どころと言える。
この記事では『和階堂真の事件簿 TRILOGY DELUXE』のレビューをお届けする。
- 推理小説や2時間ドラマが好きな人
- 気軽に遊びたい人
レビュー
推理小説の流れを汲みつつ、シンプルな謎解き
公開順
- 1作目「処刑人の楔」:カルトが絡んだ猟奇殺人事件を描く
- 2作目「隠し神の森」:地方の旧家が舞台となる因習もの
- 3作目「影法師の足」:主人公が追い詰められていくスリリングなミステリー
- 4作目「指切館の殺人」:怪奇事件が起こるクローズドサークルもの
トリロジーだけど4作入ってない?
「DELUXE」=+1かも?
2作目の「隠し神の森」では人里離れた村で旧家の当主が殺される。
ギクシャクしている旧家の人々や、旧家にさまざまな感情を持つ村人、伝説になぞらえて亡骸に着せられたお面と蓑など、跡目争いや村の象徴的なアイテムといったキーとなる要素からは横溝正史の『獄門島』に代表される“因習もの”の雰囲気を漂わせる。
4作目の「指切館の殺人」は嵐によって跳ね橋が動かせなくなり、陸の孤島と化した館で事件が起こる。
推理小説では定番のクローズドサークルもので、タイトルからして綾辻行人の館シリーズを連想させる。部屋のなかに井戸がある“特殊な建物”であることも館シリーズっぽさがある。
各物語の終盤で和階堂(プレイヤー)が複数の問いに答えていくシーンは有栖川有栖の著作に見られるような「読者への挑戦」さながらだ。
和階堂真の事件簿では本格~新本格推理小説の空気感を盛り込みつつも、連続殺人は起こらないし、プレイ時間は1-2時間で終わる。謎解きまでの道のりをシンプルにすることで短編小説のようにコンパクトで気軽にミステリーが楽しめる作品となっている。
名探偵は別の事件に当たってくれい!
要は初心者向けってことね。
プレイヤーを真相に導く親切丁寧な捜査・推理システム
和階堂真の事件簿は横スクロール形式のポイントアンドクリックで、登場人物たちと会話をしたり、オブジェクトを調べながら事件解決の糸口を見つけ出していく。
調べられるオブジェクトや会話できる人物が白く表示されるのが分かりやすく、画面上をあれこれとクリックしたりする必要はない。
捜査の肝となるのが地道な聞き込みだ。会話のなかで、重要な手がかりを得るとメモに保存される。メモに情報をセットしてから話しかけるとまた新たな情報が得られる作りになっている。
メモによって推理のヒントとなるワードをプレイヤーに印象付けしつつ、聞き込みで糸口を見つけている感覚が味わえる。
メモを使った会話では一部を除いて、その内容を聞くべき人物が右ページに表示される。ミステリーアドベンチャーにありがちな総当りで会話を聞きまくる退屈さを味わうこともない。
各章の終わりには和階堂がここまでの推理を整理するパートがあり、問いに対してメモのなかから正しいものを選んでいく。このパートによってプレイヤーも頭の中が整理できる上、仮に推理が理解できていなくても追いつける。
メモにある不要な情報が整理されるのも親切だね。
本作は推理の部分をできるだけ分かりやすくすることで、プレイヤーを脱落させないようにしている。ミステリーに一家言あるようなプレイヤーには向かないが、誰もがミステリーを楽しめることを重点に置いた丁寧な作りには好感が持てる。
ドット絵が彩るハードボイルド
本作の特徴の1つがドット絵のビジュアルだ。
キャラクターは無表情……というよりのっぺらぼうで、質問を投げかけて相手の表情の変化を見るといった推理の基本は通用しない。
表情がないとキャラクターに愛着が持てず、どこか距離を感じる。プレイヤーは和階堂と自分を重ね合わせてプレイするのではなく、俯瞰的な立場で冷静に物事を見極められる。
事件のなかには大まかな外見だけを描写していることを逆手に取ったストーリーもあり、シリーズを通して隙のない作りだ。
タイトル選択画面で流れる楽曲「紫煙」は本作のハードボイルドな雰囲気をグッと引き上げている。深みのあるゆったりとしたベースと澄んだライドシンバルのピング音(打音)がムーディーな世界観を作り出す。
捜査中のBGM「凄惨」は不穏なピアノサウンドがミステリアスな空気を感じさせる楽曲のクオリティは総じて高く、サントラがほしくなった。
サントラ売って!!
総プレイ時間は5時間半
公式サイトでは「1作平均1時間から2時間で事件解決まで辿りつける」と記されている。
筆者の各作品のプレイ時間は以下のとおり。4作合計で5時間半。作品によって幅はあるが、どれも1~2時間でクリアしている。
- 「処刑人の楔」:1時間
- 「隠し神の森」:1時間半
- 「影法師の足」:1時間
- 「指切館の殺人」:2時間
スキマ時間にピッタリなボリュームだ。細かなオートセーブのおかげで中断したところからすぐに再開でき、気軽に遊べるのが良かった。
総合評価
総評:傑作
5/5
『和階堂真の事件簿 TRILOGY DELUXE』は優れた短編がセットになったミステリーアドベンチャーだ。
横溝の因習ものや綾辻の館シリーズなど、本格~新本格推理小説の流れを汲みつつ、謎解きに至るまでの導線はシンプルで、犯人当てが苦手な人でも推理小説の雰囲気を味わいながら遊べる。
調べる対象を分かりやすくしたり、推理を整理するパートを適宜差し込むなど、解決までの過程で脱落してしまうプレイヤーを極力減らせるように作られた捜査・推理のシステムは丁寧で親切だった。
かわいらしくも表情の読めないドット絵、ハードボイルド風味の音楽などのクオリティは総じて高い。
難事件を解決したい名探偵は物足りなさを感じるかもしれないが、推理小説や懐かしの2時間ドラマなどライトなミステリーを好む安楽椅子探偵諸氏にはぜひおすすめしたいタイトルだ。
- 本格~新本格の空気をまとったミステリー
- 親切丁寧な捜査・推理システム
- ドット絵のビジュアルと渋い音楽
- 気軽に遊べるボリューム
- 特になし
『和階堂真の事件簿 TRILOGY DELUXE』
- 対応機種:Nintendo Switch、PC
- 発売日:2023年10月19日
- 開発元:墓場文庫
- 発売元:room6
- ジャンル:ミステリーアドベンチャー
- 筆者プレイ時間:5時間30分
- レビュー時のプレイ機種:PC (Steam)
※2023年12月10日時点
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