『サンパギータ』は「やるドラ」シリーズの第3弾。
本作は、フィリピン人女性・マリアを中心にストーリーが展開する。
ヤクザやマフィアが登場し、今までよりもバイオレンスなサスペンスだ。
《見るドラマからやるドラマへ》をコンセプトにしたシリーズ。アニメーションを多用しているのが特徴。
この記事では、5つの評価ポイントからPS版『サンパギータ』のレビューをお届けする。
ジャンル | 恋愛アドベンチャー |
発売元 | SCE |
開発元 | Production I.G シュガーアンドロケッツ |
プラットフォーム | PlayStation PlayStation Portable |
発売日 | PS1:1998年10月15日 PSP:2005年7月28日 |
- バイオレンスアクションが好きな人
- ご都合主義のうそっぽいハッピーエンドが嫌いな人
登場人物紹介
主人公

親元を離れ、一人暮らしをしている大学生。
マリアとの出会いをきっかけに、平凡な人生が大きく変わっていく。
マリア・サントス

フィリピン出身。故郷では貧しい花売り娘であった。(サンパギータは当時売っていた白い花)
とある理由で来日したが、主人公と出会う前に頭を打ち、記憶喪失に。
電気を消して眠れない。主人公が帰ってくるときはトイレに隠れるなど、怯えている。
ボーイ

マリアが持っていた写真に写っていた男の子。マリアの兄代わりだったようだが……。
あらすじ
主人公は気乗りしない合コンで終電を逃した上に、タクシー代もなく、雨の中をずぶ濡れになって歩いていた。
アパートの近くまでくると、路地裏から物音が聞こえた。様子を見に行くと怪我した外国人女性を見つける。

主人公が車を呼んでこようとすると、女性に止められ、仕方なくおぶってアパートに連れ帰った。
彼女はマリアと名乗り、名前以外の記憶を失っていた。なにか情報はないかとマリアが持っていたカバンを開けると、そこには30万円と拳銃が入っていた。

無慈悲なトゥルーエンド
収録されたグッドエンドは3つ。
- 手紙
- 再会
- 永遠に
そのうち、トゥルーエンドは「再会」「永遠に」の2つだ。(「手紙」を見ないと解放されないエンディング)
「再会」……主人公はマリアを救うためにヤクザを撃ち、警察に出頭。刑期を終え、フィリピンでマリアと再会する。
「永遠に」……主人公はヤクザに撃たれそうになったマリアをかばって被弾。死後に幽霊となってフィリピンのマリアを見守る。
ご都合主義の作品ならフィリピンに高飛びする、撃たれても一命を取り留め、罪に問われないといった描写でハッピーエンドを迎えるだろう。
しかし、『サンパギータ』は違う。無茶な行動をすればその代償を支払わねばならないのだ。
罪を犯せば服役しなければならないし、武器も取らずに撃たれればあっけなく死ぬ。

渋谷のビルが爆発するなど、ストーリーのすべてが現実的とは言えないが、代償にはやたらとリアリティがあった。

幽霊になってからも電車に乗ったり、飛行機に乗ったりと人間っぽい行動をする。マジメか!
丁寧に描かれた主人公とマリアの関係性
ヒロインはマリアのみ。おかげで、マリアが徐々に心を開いていく様子をじっくりと描写することができ、プレイヤーは時を追うごとにマリアに魅了されていく。
出会ったばかりのころ、マリアは警戒心が強い。主人公の言動ひとつでかんたんに心が離れてしまう。


仲が深まってきたゲーム中盤ではマリアから「いつまでも私のこと、愛してくれる?」と聞かれる。
正しい答えは「正直言ってよくわからない」だ。
かんたんに愛していると言えば、マリアは主人公の軽薄さに不安を覚える。
正直な気持ちを伝えるほうが、マリアとの絆が深まる。


2人でスーパーに買い物に行った帰り、募金活動する子どもたちを見つけたマリアは募金箱に1万円を入れる。
その後の選択肢で主人公は「どうして?」と理由を聞くのが正解、「ちょっと多いんじゃない」と意見を言うとバッドエンドに近づく(のち選択肢にもよるが)。


相手の考えや意図を聞かずに自分の意見を押し付けるとうまくいかないのはよくある話だ。
マリアは異国で生活している上に、記憶もなく、明るくふるまっていても根底には常に不安を抱えている。
なにか一つボタンの掛け違いが起きるだけで、不安は決壊し、バッドエンドとなる。
違いを受け入れ、少しずつ2人の関係を育んでいく丁寧な描写はよかった。



ゲーム内では金銭感覚だけではなく信仰の違いについても言及されていたのが印象的だった。
一方、説明不足な部分があるのも否めない。
マリアの過去はフィリピン~九龍城までの描写のみで、日本に着てからどのように過ごしてきたは言及されない。
一大抗争に発展するまでの流れは謎のままになっているのは不満だ。


いい味出しているサブキャラの男たち
『サンパギータ』に登場する女性キャラクターはマリアのみ。他はオジサンだらけだ。
オジサンたちはそれぞれ人間味があって、おもしろい。
ボーイ
マリアの兄代わりである「ボーイ」は情に厚い。男が惚れる男だ。


生い立ちから仕方なくマフィアの一員となり、マリアをかばうため、さらなる悪事に手を染めることになる。
軟弱な主人公ではマリアを守れるわけがないと最初は軽蔑していたが、主人公の一声で危機を回避してからは主人公を「兄弟」と呼び、マリアを託した。
主人公との友情が築かれていく様子もまたよかった。



声優は大塚明夫さん。おかげで頼りがいがある感じが高まっている!
ランディ
私がツボにハマってしまったのが、ランディだ。
フィリピン料理店の経営者で、主人公の話を親身になって聞いてくれる良い人。
最初はただのブサイクなオジサンと思っていたが、何度も見るたびに仏のような人柄が気に入った。





こんなに澄んだ目のおじさん、いる?
佐藤は蛇足
一方でムカつく人物もいた。大学の同輩で成金趣味の嫌味なキャラクター・佐藤。こいつは蛇足だ。
本筋のストーリーに関わるわけでもなく、佐藤が登場するとバッドエンドに至る。


快適になったシステム
過去のやるドラシリーズと比較して、『サンパギータ』は主に3つ、システム面の改良され、プレイが快適になった。
- 自動スキップの追加
- エンディングリストの追加
- 主人公ボイスの追加
自動スキップ
自動スキップの追加は一番ありがたい機能だ。
多くのノベルゲームではスキップといえば、ボタンを一度押しただけで自動スキップになるが、やるドラの過去2作はボタンを押している間だけスキップされる使用だった。
そのため、周回プレイ中はずっとボタンを押し続けて手が痛くなることもあった。
今作はオプションで自動/手動を切り替えられるため、好みにあわせて変更できる。
エンディングリスト
エンディングリストの追加も良い。


過去作ではどのエンディングを見たかはプレイヤー側で覚えておく必要があった。
『サンパギータ』ではエンディング後に今まで見たエンディングがリストで一覧表示されるため、分かりやすい。
主人公ボイス
主人公ボイスの追加は賛否両論あるだろう。
主人公のボイスがあるとドラマを見ているようで没入感があると感じるプレイヤーもいれば、感情移入がしにくいと感じてしまうこともある。
今作ではオプションでボイスのあり/なしを選択できる。
キャラデザ・音楽
『サンパギータ』のキャラクター原案には『攻殻機動隊』の士郎正宗を起用。
表情豊かなマリア
マリアは表情豊かに描かれており、冒頭の不安そうな表情から、徐々に主人公と打ち解けていくところが印象的だ。
スーパーに買い出しにきた2人。マリアは嬉々として主人公と腕を組む。
周囲の目が気になった主人公から恥ずかしいと言われると途端にマリアはプンプン怒り出す。




表情がコロコロ変わるところがかわいい。
「Hold On」がかっこいい
作中のBGMは可もなく不可もなし。
エンディングテーマ「Hold On」がよかった。
アニソンのテイストがあるロックな曲で、伸びやかでパワフルな女性ボーカルがかっこいい。
歌っているのはマリーン。フィリピン出身のジャズシンガーだ。



気に入りすぎてずっと歌ってた。



hold onの意味は「つかまえて」
マリアの恋心を表現すると同時に、主人公が罪を犯して逮捕、収監されるトゥルーエンドを暗示しているわね……。
総合評価





総評:良い
3/5
『サンパギータ』はリアリスティックなバイオレンスアドベンチャーだ。
トゥルーエンドは苦く、ハッピーエンドとは言いがたい。しかし、ご都合主義のうそっぽいハッピーエンドよりはずっと良いと感じた。
マリアが来日してからの稼業やボーイについてもう少し深堀りすれば、よりおもしろいシナリオになっただろう。(ソニー規制のなかでどこまで描けるかは謎だが……)
バイオレンス・アクションものに興味があれば、プレイしてもよいタイトルだ。
- マリアとの細かい心理描写
- 魅力的なサブキャラクター
- 過去の描写が欠けている
- 苦いトゥルーエンド



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