『季節を抱きしめて』は「やるドラ」シリーズの第2弾。
本作は、サイコスリラーだった前作『ダブルキャスト』と比べ、登場人物が少なく、メインの女性キャラクター2人と主人公の恋愛模様を中心に描いており、一見すると普通のギャルゲーに見える。
そこでもうひとひねりあるのが《やるドラシリーズ》だ。《悲恋桜》の悲しい伝説を絡ませることでオカルト、ホラー風味を加えている。
《見るドラマからやるドラマへ》をコンセプトにしたシリーズ。アニメーションを多用しているのが特徴。
この記事では、4つの評価ポイントからPS版『季節を抱きしめて』のレビューをお届けする。
ジャンル | 恋愛アドベンチャー |
発売元 | SCE |
開発元 | Production I.G シュガーアンドロケッツ |
プラットフォーム | PlayStation PlayStation Portable |
発売日 | PS1:1998年7月23日 PSP:2005年7月28日 |
- 三角関係を楽しみたい人
- オカルト・怪談が好きな人
登場人物紹介
麻由
悲恋桜の下で倒れていた少女。主人公が過去に好きだった《麻由》と瓜二つ。
記憶を失っており、主人公の助けを借りて記憶を取り戻そうとする。
自ら思いつきで《麻由》と名乗ったが、これは偶然なのか……?
国立トモコ
予備校時代に知り合った主人公の友人。
麻由を亡くしてふさぎ込んでいた主人公を励まし、親しくなる。友達以上恋人未満の微妙な関係だ。
本人は恋人気取りで、麻由にもツラく当たる。
お姉さん
主人公が住むアパートの大家の姪。
水商売をしている。
たまに見せる憂いのある表情には過去の出来事が関係している。
あらすじ
主人公はアルバイトに向かう途中、悲恋桜の下に倒れている少女を発見する。
少女を助け起こすと、痴漢と間違われて蹴りをくらってしまう。
主人公は一応、連絡先の電話番号を渡し、アルバイトへ急いだ。
しかし、少女のことが頭から離れず、仕事を放り出して悲恋桜に戻るとそこに少女はいなかった。
そこには桜の花びらが落ちていた。まだ桜は咲いてもいないのに……。
真のエンディングは「桜の精編」
『季節を抱きしめて』には5つのグッドエンドがある。
- ベリーグッド!
- 麻由編
- 桜の精編
- トモコ編
- 綺麗なお姉さん編
筆者はこの5つの中に、ベストエンドと真のエンド(トゥルーエンド)が含まれていると感じた。
「綺麗なお姉さん編」は別として、メインキャラクターで分けるとトモコ枠の「ベリーグッド!」「トモコ編」と麻由枠の「麻由編」「桜の精編」となる。
筆者はベストエンドが「ベリーグッド!」真のエンドが「桜の精編」だと思う。
ベリーグッド!
「ベリーグッド!」では、麻由に主人公を取られるのではないかと危機感を感じたトモコが主人公への想いを伝え、主人公も彼女の気持ちに応える。
最初は恋人気取りでつきまとってくるトモコをうっとうしく感じるが、過去のエピソードや主人公を想い続ける一途な気持ちが明らかになるにつれ、トモコもなかなか良いなと印象が変わっていった。
主人公の心が自分にあると分かったら、急に麻由にやさしくなるトモコ(なんて分かりやすいんだ……)
では「桜の精編」はどうだろうか?
桜の精編
「桜の精編」では、少女が実は桜の精(化身)であることがわかる。
桜の精には亡くなった主人公の友人・麻由の魂が宿っていた。
彼女は事故に遭って昏睡状態になっている妹・麻美を救うため、主人公にある頼みごとをする。
主人公がのぞみを叶えると麻由は消え、麻美が意識を取り戻す。
元気になった麻美は主人公と結ばれる。
「桜の精編」は初回プレイではたどり着くことができない。隠されたエンディングだ。
しかし、話にそれほど意外性はない。
初回プレイ時にこれでもかと言うぐらい少女の正体は暗示されているからだ。
- 意味深な桜の花びらを拾う
- 見た目が瓜二つだと思っていた少女が自ら麻由と名乗す
- 桜になにかあれば麻由が苦しみだす
「桜の精編」では、麻由の魂が桜の精になったこと、昏睡状態になっている妹のこと、悲恋桜の伝説の間違いなどが次々と明かされ、伏線が回収される。
ストーリー展開は良いが、妹・麻美についてのエピソードが少ないため、麻美と結ばれるエンディングは唐突に感じる。
プレイヤー側は麻美に思い入れがないため、麻由の幻影を追いかけてしまうのだ。
もっと麻美のことを知りたかったんですが!
前から主人公のことが好きだったと言われても、知らんし……。
制作側は「桜の精編」を真のエンディングとして作ったのだろう。
筆者のTwitterアカウントでアンケートを取ってみたところ、真のエンディングは「桜の精編」だという回答で全員が一致した。
割り増しされたバッドエンド
グッドエンド以外のエンディング数は以下の通り。
- ノーマルエンド:4
- バッドエンド:18
エンディング多すぎ!
- 「春の日の妄想編」……トモコのことを考えてたら主人公がいつの間にか死ぬ。
- 「幻の写真集を見た編」……屋根裏から登場キャラクターの水着写真集を発見してしまう
バッドエンドの後に流れるヒントコーナーはかわいい。
このようなギャグに全振りしたエンディングはアリ。
- 「もうボクは若くない編」……麻由をずっと待ち続けて主人公が年老いてしまう
- 「そしてボクは一人編」……トモコと結ばれたものの違和感が残る
などは、その過程を描いていけば魅力的なバッドエンドになりそうだったが、話がふくらまずにすぐ終わってしまい、物足りない。
「あれから何十年」という1行で過程を全スキップした結果、数秒で老人になってしまう主人公。
それ以外のエンディングは軽微な差だ。
結果的として、エンディング回収は完全なる作業となってしまった。
悲恋桜の伝説がまさかのホラー展開!劇画チックな絵がこわい
急なホラーテイストでおぞましいのが、悲恋桜にまつわる伝説だ。ホラー好きの筆者は楽しんでプレイできた。
冒頭、主人公が語る悲恋桜の話は3つある。
- 落ち武者と美しい娘の悲しい恋の物語
- 怨霊……桜鬼伝説……
- この下で出会った男女は必ず別れる
「男女が別れる」というのはデートスポットや名所にありがちな設定だが、他の2つはクセがすごい。
落ち武者と美しい娘の悲しい恋の物語
むかし、この地に隠れ住んだ落ち武者がいた。彼が桜に魅せられ人里に下りてくると、桜の下で笛を奏でる娘と出会う。
二人は恋に落ちるが、娘を心配した父親は落ち武者に毒を食わせ殺してしまう。そして桜の下に埋めてしまった。
落ち武者の姿が見えず、泣き暮らす娘の前に霊として現れた落ち武者は一部始終を話す。
すると娘は桜の木の下で自ら命を断ってしまう。
絵のクセもすごいが、ギャルゲーの冒頭にしては重すぎる話。
怨霊……桜鬼伝説……
山で暮らす姉妹のもとに怪我をした僧侶がたずねてきた。
聞けば、僧侶は宝を運んでいる途中に山賊に襲われ、命からがら逃げてきたのだと言う。
不憫に思った姉妹は僧侶を家にかくまった。
しかし、僧侶の正体はナマグサ坊主。寺から追い出された腹いせに宝を盗み、逃げてきたのだった。
やがて、姉娘と僧侶が恋仲になる。
2人をねたんだ妹は、僧侶に「姉が僧侶と妹を殺して宝を奪おうとしている」と伝える。
うそを信じた僧侶は妹を連れて都に移り、宝を売って新しい生活をはじめた。
残された姉は二人を呪い、桜の木に首をくくって死んでしまう。
姉の怨念がこもった桜の花びらは都で暮らす妹と僧侶のもとへ飛んでいく。
真っ赤な花びらを面白がった僧侶がもっと降れと言うと、どんどん降ってきた。
花びらは血に変わり、部屋を埋め尽くし、二人は死んでしまった。
その後、死んだ姉娘を哀れんだ神様が《桜の精》としての役割を与えたが、彼女の悲しみは癒えず、桜の下に気に入った男が現れると桜の中に取り込んで花を咲かせるのだという。
ここまでくると完全に怪談。
この怪談自体はよく出来ている。
筆者はホラーの類が好きなため、楽しんでプレイできたが……。
普通はギャルゲーをやろうとして、しょっぱなからこの怨霊話を見せられたらドン引きするのでは。(だから初回プレイでは選択肢がないのでは?)
ちなみに「桜の精編」のエンディングを迎えるには本当の伝説にたどり着かなかればならない。
サウンドバランスは改善、キャラクターボイスも安定
前作『ダブルキャスト』では環境音がうるさく、セリフが聞こえにくかった。
本作はサウンドバランスが改善されており、違和感なく楽しめた。
麻由役の今井由香さんの明るいぶりっ子ボイスもハマっていたし、三石琴乃さんも独占欲が強く、主張の激しいトモコ役にピッタリだった。
トモコのイヤリング(ピアス?)が日によって変わるのもこだわりがあってよかった。
エンディングテーマ「季節を抱きしめて」も、ザ・90年代後半のアニソンと言った感じでよい曲だった。
思い出を抱きしめて あなたを感じてる
エンディングテーマ「季節を抱きしめて」大藤史
4月の空 淡い桜色した別れの季節
歌詞では4月を「別れの季節」と歌っている。トモコ、麻美とは4月に結ばれているため、別れるのは麻由とだけだ。
やはり真のヒロインは結ばれることのない麻由なのだろう。
総合評価
総評:良い
3/5
『季節を抱きしめて』は悲恋桜にまつわる怪談を絡めた恋愛アドベンチャーだ。
真のエンディングとも言える「桜の精編」は今までのプレイ中に仕込まれていた伏線を回収する優れたシナリオだが、やや唐突な感は否めない。
もう少し麻美のエピソードを細かく作り込んでいれば、より優れたものになっていたはずだ。
インパクトの強い「やるドラ」シリーズのなかでは地味なタイトルだが、シナリオは悪くない。
オカルト・怪談好きや超常現象に抵抗がなければ、プレイしてもよいゲームだ。
- 怪談を生かしたストーリー
- 優れたアニメーションと声優
- 唐突なストーリー展開
- やたらと多いバッドエンド
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