『ファミコン探偵倶楽部』は懐かしのファミコン時代に人気を博したミステリーアドベンチャーゲームだ。
第一作「消えた後継者」は1988年に発売され、ファミコンに周辺機器「ディスクシステム」を接続してプレイする仕様だった。
その後、バーチャルコンソール(Wii、3DS、Wii U)でもプレイ可能になり、2021年5月には全面リメイクされた『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』がSwitch向けに発売された。

プレイしやすいという利点はあるが、キャラクターデザインの全面変更によってオリジナル版の雰囲気とはガラリと変わっている。
この記事では、6つのポイントを上げながら、Nintendo Switch版『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』をレビューしていく。
ジャンル | 推理アドベンチャー |
発売元 | 任天堂 |
開発元 | MAGES. |
プラットフォーム | Nintendo Switch |
発売日 | 2021年5月14日 |
プレイ時間 | 6時間 |
- 分かりやすいミステリーが好きな人
ストーリー(あらすじ)
崖の下に倒れていた主人公は見知らぬ男に介抱され、意識を取り戻した。しかし過去の記憶を失っていた。

手がかりを求めて崖に戻ると、知り合いらしき若い女性と出会う。
女性はあゆみと名乗り、主人公と一緒に探偵事務所で働いているという。

二人は事務所に戻り、記憶を失う前に主人公が書いたメモをヒントに「明神村」を訪ねる。
村では最近綾城家の当主・キクが不審死する事件があったらしい。
主人公は自らの記憶と不審死の真相を解明すべく、捜査に乗り出す。
主要キャラクター紹介
主人公

空木探偵事務所に所属する少年探偵。
名前はプレイヤーが決める方式。
橘 あゆみ

主人公と同じく空木探偵事務所に所属している。空木探偵の助手。
主人公の捜査を手伝い、親身になってアドバイスをくれる。カワイイ。
消え去ったおどろおどろしさ
「消えた後継者」は一見すると横溝正史ミステリーのようなおどろおどろしさの条件を備えている。
- 田舎の名家で起こる殺人事件
- 遺産をめぐる争い
- 不気味な因習
ところが、雰囲気はクリアで明るい。なぜなのか。
見せすぎたグラフィック
シナリオの雰囲気はいい。問題は新たに描き下ろされたキャラクターデザイン、背景などのグラフィックだ。
鮮明過ぎる背景は不気味さゼロ
明神村は避暑地のような美しい景色がハッキリクッキリ描かれている。
寺の墓場ですら、雰囲気は明るくカラっとしている。

熊田医院の診察室など、古びた描写は良かった。しかし、それが作品の雰囲気作りに結びつかなかったのが残念だ。

清潔過ぎるキャラクターデザイン
キャラクターも「少年探偵」というには少々無理があるイケメン青年主人公をはじめとして、整った容姿の者ばかりだ。
綾城の3兄弟たちがそれぞれを陥れようと画策しているシーンでも、表情だけは苦々しいが、内面の憎しみや欲や執着心を感じさせる人間の「醜さ」が不足している。

その結果、横溝のプロットをなぞった風の小さくまとまったミステリーになってしまった。
二重構造のストーリー
「消えた後継者」では2つの謎解きが同時進行する。
- 綾城家当主・キクの不審死
- 主人公が記憶喪失になった原因
メインは綾城家の捜査で、ところどころ主人公の過去の記憶を解き明かしていくシナリオになっている。
綾城家の事件はヒントを明かしすぎているため、筆者はかなり早い段階でオチが読めてしまった。ミステリーとしては大きく減点だ。
主人公の記憶喪失というもう一つの謎に引っ張られて、最後まで飽きずにプレイすることができた。伏線回収はきちんとされており、すっきりとまとまっている。
《生きたキャラクター》
「消えた後継者」のキャラクターたちはとにかく動く。
途中でコントローラーを置いていたら、なにやらキャラクターが動いているのに気がついた。
執事の善蔵と話している途中だったのだが、善蔵の上半身が少し大きくなったり、小さくなったりしていたのだ。

善蔵さん生きてる!呼吸してる!


呼吸による肋骨の動きまで再現しているとは驚いた。
細かいしぐさにもこだわりを感じる。
綾城家の顧問弁護士・神田の事務所を訪ねた際、当人は不在で代わりに秘書が対応してくれた。
主人公との会話に落ち着かず、イライラした秘書は腕組みした指先をトントンと忙しなく動かしているのだ。


言葉だけではなく、しぐさからもキャラクターの空気が感じ取れる作りはリアリティがあるし、今の技術でのリメイクならではと言える。
キャラクターの《動き》が本作に大きな好影響を与えたとは言えないが、キャラ付けや愛着を持つ装置としては機能していた。
優れたBGMと声優が展開を盛り上げる
「消えた後継者」のサウンドは素晴らしい。
雰囲気マシマシのサウンド
過去の作品のテイストを残しながらバージョンアップされたBGMはどれも雰囲気満載だ。


綾城家の屋敷で流れる「屋敷」あゆみと事務所で話しているときの「空木探偵事務所」は良い。
特に良いのが寺のシーン。不思議なBGM「神楽寺」と騒々しいセミの声が季節感と村人たちが共有する不安や恐れを見事に表現している。
ハマった声優の演技
リメイクでは多くの有名声優を起用し、フルボイス化された。
主人公役の緒方恵美をはじめ、モブキャラのはずがやたらと記憶に残る駅員に千葉繫を当てるなど安定したベテランの起用が目立つ。


キャラクターにハマった演技で本作の雰囲気作りに貢献している。
特に主人公と同じ探偵事務所の助手・あゆみ役の皆口裕子は素晴らしく、可憐なキャラクターに合った演技で登場するたびに思わずカワイイと思ってしまった……。



リメイク版ファミコン探偵倶楽部は皆口ゲー
懐古派も納得?細かいオプション設定とわかりやすさを追求したシステム
「消えた後継者」はコマンド総当りシステムをメインとしながら、証拠探しなどでポイントクリック、犯人の名前などで文字入力を採用している。
進行につまったとしても「話す」「思い出す」などのコマンドを繰り返せば先に進めることが多く、難易度は高くない。


プレイヤーを迷子にさせない親切設計
普段ミステリーを読まないプレイヤーでも途中で話を見失わないよう、かなり丁寧に作られていた。
捜査を終えたら日々事務所に戻って「推理する」ことでその日に起こった出来事を簡略化してプレイヤーに説明する。
新しい情報は随時手帳に追加され、登場人物ごとに分けて保存される。


中断して少し期間が空いたプレイヤーでも進み具合をすぐに把握できる作りになっていた。
レトロ設定可能なオプション(コンフィグ)
本作のオプション(コンフィグ)設定はかなり細かく、フォントや音声、BGMをレトロなものにするか選択できる作りになっている。
できるだけ過去作のイメージにあわせることも可能だ。(グラフィックはどうしようもない……)


サクッとプレイできるボリューム
クリアまでの時間は6時間。
筆者はボイスを飛ばしてプレイした時間もあったため、すべて聞いていればもう少しプレイ時間は延びるだろう。
中だるみもなく、一気にプレイできるボリュームだ。
総合評価





総評:まずまず
2.5/5
『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』はファミコン時代の名作アドベンチャーの全面リメイクタイトルだ。
鮮明なグラフィックが名作と言われた作品からおどろおどろしさを奪い去り、ありふれたタイトルへと作り変えてしまった。
BGMや声優の演技は作品の雰囲気作りに貢献していたのだが……。
手軽で分かりやすいミステリーを好むプレイヤー向けのタイトルだ。
- 雰囲気に合ったBGM
- あゆみちゃん(皆口裕子)ボイスが最強
- 雰囲気を壊すキャラクターデザイン
- 先の読めるストーリー



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このページで使用している『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』のゲームキャプチャ画像はNintendo / TOSE CO., LTD. / MAGES. の著作物です。転載、配布等は禁止いたします。