台湾では1947〜1987年の長きにわたり、政府による共産主義・反政府主義への激しい弾圧が行われた。
『返校』は台湾のインディーズゲーム制作会社『Red Candle Games(赤燭遊戯)』があえて歴史の暗部に光をあて、開発したホラーゲームだ。
『返校』の意味は、「学校に帰る」
副題のdetentionの意味は「拘留」
主人公・レイが学校に閉じ込められ外に出られないことと、政府の弾圧によって市民が捕らえられ拘留されたことのダブルミーニングとなっている。
この記事では『返校』のレビューをお届けする。
ジャンル | ホラーアドベンチャー |
発売元 | RedCandleGames PLAYISM |
開発元 | RedCandleGames |
プラットフォーム | Nintendo Switch PC(Steam) |
発売日 | Switch:2018年3月1日 Steam:2017年1月13日 |
プレイ時間 | 5時間 |
- じっとりとしたホラーが好きな人
- オリエンタルな雰囲気を楽しみたい人
ストーリー
台風の日。授業中に居眠りをして教室に一人取り残された少年・ウェイは急いで帰ろうとする。
ウェイは途中で出会った上級生の少女・レイと共に校外へ出ようとするが、橋が流され、それ以上先に進むことができなかった。
仕方がなく二人は校内に留まり、安全な場所で救出を待つことにした。

そんな矢先、ウェイは講堂のステージ上に吊るされた無残な姿で見つかる。
ひとりぼっちになったレイは、ウェイが残した手帳を手がかりに校内を探索し、悪夢から逃れようとするが……
夜の学校は悪霊がさまよい、道教の神々の力であちこちが封印された魔窟と化していた。
人物紹介
ファン・レイシン(主人公:レイ)

3年生の少女。成績優秀で作文では表彰までされたが、家庭内に問題を抱えている。
鹿の形をした翡翠のペンダントを宝物にしている。
ウェイ・チャンティン
2年生の少年。学校探索時の手がかりとなる手帳を残していった。
チャン先生
男性教師。生徒指導に関わる。レイの家庭の問題について相談を受けていたが……。
イン先生
校長の娘で歴史教師。レイの担任でもある。
生徒を集め、禁じられた書籍を読む「読書会」に関わった疑いで当局に連行された。
謎の男性
ボーダーのTシャツを着た男性が時々現れ、レイに進むべき道を教えてくれる。
この男性の正体は……?
台湾ならではのエキゾチックな怪異
主人公・レイは夜の校内を探索するうち、死霊と何度も遭遇することになる。
そのたびに逃げたり、息を止めてやり過ごす必要がある。
- すすり泣き、廊下をさまよう女
- 巨大な異形の怪物
- 提灯を持ち、笠をかぶった長身の人など……
息を止めて一定時間が過ぎると苦しくなり、ふっと息を吸ってしまう。
すると死霊に気づかれるので、死霊が通り過ぎるまでいかに息をもたせるかが重要だ。

死霊につかまると殺されてしまい、冥界へと至る三途の河原で出会った老女が生き延びるための「ヒント」を教えてくれる。
老女の教えを守れば悪霊をやり過ごすことができ、何度も理不尽に殺されることはない。
突然現れる悪霊たちの姿は何度見てもおそろしい。
また、逃げたり息を止めてやり過ごすことしかできない主人公の「非力さ」がより恐怖を増している。
死霊に攻撃したり撃退する手段が一切ないところが、逆にいい。
前半は廊下の先に突然現れるかもしれないと不安になり少しずつ進んだりして、ビクビクしながらプレイした。
全体を通じ、道教のまじないや封印などもあちこちに取り入れられており、エキゾチックでおもしろかった。
ポイント&クリックシステムでパズルを解いていく
操作は簡単で、ゲームに慣れていない私でも進めやすかった。
- 手がかりを得られるなど、探すべき場所に「虫めがねのマーク」が出る
- 「目のマーク」をクリックするとコメントが出たり、画像がクローズアップされたりする
- 「目のマーク」のうち一部では、特定の場所を操作することによってパズルを解き、次に進むことができる。
パズルの中には難解なものもあり、全くノーヒントでは行き詰まってしまうかもしれない。
机に刻まれた暗号
サイコロを3つ集めて鉢に入れると、出目の数字がダイヤル錠を解くためのヒントとなる。ここのビジュアルは実に不気味で良かった。
このとき拾った鉢を使い、机に刻まれた暗号を解読する方法は思いもよらなかった。
そんな方法をすんなり思いつく人がいたら異常快楽者じゃないか……とツッコミたい。
黒電話
朽ち果てた職員室には黒電話がある。
ゲームに慣れている人なら、ここでダイヤルを回して次に進むのだとすぐにわかるだろう。
私にはわからなかったが……。
オルガンの演奏
音楽室にあるオルガンを演奏すると、異変が起こる。
しかし、何度かメロディーを聞いただけで音階を再現できるなんて、音楽的素養がなければ到底不可能では?

凝ったグラフィックの演出
このゲームは、とにかくグラフィックが特徴的だ。
背景・人物・手前側の前景が3層にわたって奥行きを表現している。
これは、作中登場する人形劇のセオリーに則っている。人物は画面を横方向に行ったりきたりするのみで、これも人形劇風の動きとなっている。
ほとんどのパートは色を抑えたモノクローム調で、セピアがかっており時代を感じさせる。

学校・自宅・回想シーンなど場面転換が頻繁にあるが、そのたびにビジュアルの演出に変化があるので「どこにいるのか」「なにを意味するシーンか」理解を助けてくれる。
例えば回想シーンがセピアだったり。主人公の心の奥底に入り込み、過去を探っていく場面では、急に画面が台湾夜市を思わせるけばけばしい極彩色のネオンカラーに切り替わる場面があり衝撃的だった。
あるいは、水底に沈んだかのように画面がゆらぎ、細かい泡がプクプク上がっていくシーンなど。
どの場面もビジュアルの演出が凝っていておもしろい。
全体として薄暗いシーンが多く、そこからさらに電灯を消して真っ暗闇にしてみたり、ブラックライトで照らしたように闇の中にネオンピンクが光る演出も印象的だった。
音楽もナイス
サウンドはプレイヤーをわかりやすく驚かせるような音選びではない。
じっとりと肌にまとわりつく湿気を感じさせ、薄暗い校内との相性も良い。
不穏なピアノの旋律やノイズ、鐘の音が重ね合ったBGMは味わい深い。
重苦しい雰囲気はレイの心情を投影したものだろう。 軍歌のようなものもあり、時代背景を感じさせる。
(えむ)
シナリオの分岐は2パターン
シナリオは大きく3つのパートに分かれる。
まず夜の学校探索(1,2章)から始まり、レイが自宅に戻って家族の歴史を紐解き(3章)、最後にまた学校に帰って「読書会」に関わる謎を解き明かす「謎解き編」(4章)へと進行する。
最終章で「学校に帰ってくる」ところがポイントで、ゲームタイトル『返校』の意味の一つとなっている。
校内をめぐる際にはフロアごとに赤い祭壇が設けられており、そこがセーブポイントになっている。
ところが自宅にはセーブポイントがなく、延々と続く家族の物語を解き明かすまで休むヒマがない。
私にしてみれば、両親の不仲などは陳腐な問題で、ホラー要素も乏しいし、ここをそんなに長く引っぱるところか?と不満に感じた。
共にプレイしていたえむの考えでは、この両親の問題はそのままレイの問題として相似形をなしており、意味があるというのだが……。
最終章の「謎解き編」では、自分の分身であるシルエットと出会い、自問自答を繰り返すことになる。
そのとき、一つ選択肢をまちがえるとバッドエンドになってしまう。
私はつねにポジティブな選択肢を選びつづけたら、とんでもない鬱エンドが待っていた。
そこから挽回し、やっとトゥルーエンドへとたどり着いたが、ここに一つの驚きがある。
結末では全ての伏線が回収され、謎解きのカタルシスを感じることができる。
総合評価

総評:傑作
5/5
『返校』は60年代台湾の学校を舞台にしたホラーゲームだ。
前半の死霊に追いかけられるシーンは、ホラー好きにはたまらない魅力がある。
道教のまじないや死霊のビジュアルなど、台湾独特の風習を取り入れたオリエンタルな雰囲気も加点の一つだ。
ストーリーには、歴史の暗部である白色テロ(=政府による弾圧)のエピソードを含むが、事前知識がなくても十分説明があり、話が進んでいくので心配ない。
ミステリーとしてのおもしろさはまずまずというところだ。トゥルーエンドで驚かせるところは非常に良かった。
操作性は簡単で、俊敏な動作もほぼ必要ないため、初心者でも容易にプレイできる。
マイナス点としては途中家族のエピソードでホラー要素が薄れ、中だるみする点と、登場人物の声がほとんどないところ。
しかし、声がなくてもそれを補ってあまりあるほど、SEは効果抜群で音楽も良かった。
- エキゾチックな雰囲気
- グラフィックの演出・サウンドが良い
- 幽霊が怖い
- シナリオに驚きがある
- 家族のエピソードにホラー要素が乏しい
- 登場人物の声がほとんどない



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