『Road 96』は主人公が命がけで国境を超える旅を体験するアドベンチャーだ。
主人公は独裁国家から脱出するため、国境を目指す名もなき若者。旅のエピソードは内容や順番がランダムに選ばれ、プレイヤーによって異なる旅が体験できる。
旅の途中で出会うキャラクターはみな、個性的で波乱の人生を歩んでいる。彼らとの会話は印象に残るものが多く、他人の人生に触れ、さまざまな生き方が感じられるおもしろさがあった。
この記事では6つのポイントを上げながら、『Road 96』をレビューしていく。
ジャンル | ロードトリップアドベンチャー |
発売元 | Digixart Koch Media Ravenscourt (公式サイト) |
開発元 | Digixart |
プラットフォーム (ストアリンク) | Nintendo Switch PlayStation 4 & 5 Xbox Series X|S & One PC(Steam) |
発売日 | Switch:2021年8月16日 PS:2022年6月16日 Xbox:2022年6月16日 Steam:2021年8月16日 |
プレイ時間 | 13時間 (2周プレイ) |
- ロードムービーが好きな人
- 群像劇が好きな人
本記事はKoch Mediaから商品を提供いただき、作成しています。
あらすじ
1996年、ペトリア。
タイラック大統領による独裁政治に不満を持つ若者たちは亡命を試みる。
国境にそびえ立つ巨大な”壁”、厳重な警備。一度失敗すると施設に追いやられ強制労働させられる。まさしく命がけの脱出劇だ。
独裁下でも選挙は行われる。タイラックの圧政を正すため、対抗馬としてフローレスが立候補したが、票が不定に操作されている疑いがあり、独裁政権が続く気配は濃厚だ。
そして今日、ひとりの若者が旅に出る。
独裁国家からの脱出を目指し、道中で様々な人々に出会いながら、国境への道”Road96”を目指して。
基本システム
『Road 96』ではスタート地点から国境を目指して移動するなかで、登場人物との出会い・別れを繰り返して国外脱出を目指す。
バスやヒッチハイクを利用して各地に着き、周囲を探索すると大体は登場人物たちと遭遇する。
彼らと交流するパートでは会話や行動の選択があり、そのパートが終わると次の目的地への移動方法を選び、また次の場所で別の人物との出会いを繰り返して進んでいく。
最初の主人公が国境に到達すると、エピソードは終了。次のエピソードがはじまり、3人の行方不明者から主人公を選んで、再び旅に出発する。これを6人分繰り返していく。
主人公が変わるなかでも時間は進んでおり、最後の主人公が国境に到達した後に選挙の日を迎え、全体的なエンディングとなる。
旅を彩る個性豊かなキャラクター
本作には7組、8名のクセのあるキャラクターたちが登場する。
それぞれの人生と主人公の人生が交わったとき、彼らとのストーリーが描かれる。
ゾーイ
ゾーイは主人公と同じく国境を目指す10代の少女だ。周囲に反抗する姿には幼さを感じるが、信念は強い。
メインストーリーでも主人公との絡みが多く、ゾーイの行動がストーリーの結末に大きな影響を及ぼす。
ジョン
ジョン(パパベア)はトラック運転手。無線を通じて知り合ったママベアに好意を持っているが、なかなか進展しない。それにはある理由が隠されている。
酒癖が悪く、突然競争しようと言って走り出したり、サッカーのPK対決を挑んでくるなど暴走気味だ。その裏には悲しみを抱えていて……。
ファニー
ファニーは警察官。融通の効かない堅物だが、心根はやさしい。
職務だから従っているが、タイラック政権には複雑な思いがある。私生活にも悩みは尽きない。
アレックス
アレックスは天才少年。ゲーム開発、ハッキングなど、コンピューター、メカニックにも強い。
育ての母の元を離れ、両親の行方を追っている。
スタンとミッチ
スタンとミッチは強盗の2人組。大きなことを言うわりには抜けていて、強盗に入っても大した額を稼げず終わることもあるが、全く気にしていない。
彼ら兄弟の底抜けの明るさは見ていて楽しい。本作のコミカル担当。
ソーニャ
ソーニャはニュース番組の人気キャスター。美人だが高慢な態度が鼻につく。
初めて遭遇したときはソーニャに嫌気が差したカメラマンが逃げ出し、主人公が代役を務めることになった。
登壇する大臣のスピーチを撮影する際、タイラックの話では観客を盛り上げ、対立候補の話では客にブーイングさせろと指示してくる。
番組の成功のためなら世論をも操作しようとする体制側の傀儡だが、過去には痛ましい思い出もあり……。
ジャロッド
ジャロッドはタクシー運転手だ。彼が関わるエピソードはサイコスリラーテイストで他のキャラクターとは異なり、不気味な雰囲気がつきまとう。
穏やかだった数秒後には激怒しながら迫ってくるといった情緒不安定さが恐ろしく、彼に遭遇すると、つい身構えてしまう。
ジャロッドの狂気に満ちた行動にはある理由があるのだが……。
私はジャロッドのストーリーが特に好きだったなー。BGMの効果もあって、完全にホラーだった!
キャラクターはそれぞれ、家族の歴史があったり、または個人的な目的を持って動いているのよね。達成率が低いうちははっきりとわからないけど、だんだん全体像が見えてくると楽しいわね。
一度きりの”旅”を味わえ
人によってプレイ体験が異なるのが本作の特徴だ。
旅の途中で遭遇するキャラクターとのエピソードはプレイによってランダムに変わる。
筆者が2周プレイしたなかでは、初回に見たエピソードが2周目にはなかったり、その逆も然りだった。さらにエピソードの順番もシャッフルされ、全く同じ順番、エピソードを体験する可能性は低い。
現実の旅のように一期一会のプレイが味わえるのは本作ならではの楽しみだ。
主要な登場人物は7組8名。それぞれ、主義主張が異なる個性豊かな人生を歩んでいる。
彼らは主人公をいつも助けてくれるわけではなく、自分の目的を中心に動いている。彼らに巻き込まれて危険な目に遭うこともあるし、相手に都合よく使われてしまうことも……。
ありがちな「助けてあげる」「助けてもらう」だけの単純な関わりではないところに人間味を感じた。
ゲームのランダム性ゆえに、1周目のプレイだけでは登場人物たちのエピソードがすべて見られず、ほとんど遭遇しないこともあり得る。
筆者の初回プレイではソーニャとほぼ遭遇しなかったため、どのような人物なのか掴みかねた。2周プレイしても全部のストーリーは埋まらず、4組は100%を達成したが、残りの3組にはまだ見ていないエピソードがある。
一期一会の”旅”を体験するのであれば、1周プレイしてそこで得た情報だけをもって本作を思い出にするのも良いだろう。
一方、周回プレイの楽しみも捨てがたい。
たとえば、ジャロッドのエピソードで登場する、タクシーの車内に置かれた恐竜の雑誌、映画の話。このエピソードだけを見れば、なぜこんなものがあるのか理由はわからない。
しかし、別のエピソードではこの雑誌を持っている理由に言及するシーンがあり、エピソード同士の点と点とが線でつながる。
多くのエピソードを見ることでキャラクターのバックグラウンドが分かり、彼らの想いがより伝わってくる。
その周回プレイの足かせになるのがランダム性だ。
本作ではアドベンチャーでよく使われるフラグを立てて、当該ルートへ進むというようなことはできない。選ばれるエピソードはランダムであるため、まだ見ぬエピソードと出会うために何度も繰り返しプレイすることになる。
筆者がプレイした2周目では以前見たストーリーに再び遭遇し、何度もプレイするうちに一期一会のワクワク感が薄れ、作業的になってしまった。それによって周回プレイへのモチベーションが下がってしまうのがもったいない。
周回プレイをしてみて、本作は一度きりの旅を楽しむのが合っていると感じた。
本作最大の特徴であるランダム性は周回プレイには向かない。むしろ周回を想定していないようにも見える。
キャラクターを深く理解できないのはさみしいが、現実でも旅先で出会い、少しだけ時間を共有した人のことを深く理解することはできないだろう。やはり本作は一期一会の旅を味わうゲームなのだ。
本作の魅力は何気ないエピソードのなかにある
キャラクターはそれぞれの人生を歩んでいる。あるタイミングで人生が交差し、お互いに助けたり、邪魔をしたりと関わりを持つことになる。
それぞれのキャラクターの個性はしっかりと固まっていて、単なる脇役ではなく、各自が主役となり得るぐらいストーリーが厚い。その意味では一種の群像劇と言える。
個性的なキャラクターに対して、主人公の人格は流動的だ。分かっていることはシルエットの見た目と年齢、所持金、体力だけ。無色透明だ。
これは意図的なもので、主人公に個性がないからこそ、プレイヤーは主人公に乗り移って自分がキャラクターと直接やり取りしているように感じることができる。
キャラクターのエピソードで印象に残ったものをいくつか紹介したい。
多くのトレーラーハウスが集まるキャンプでのゾーイとの出会い。
彼女がオーナーのお金を盗んだと詰問されているところに主人公が割って入る。
場が収まって別れた後、ダンボールで寝ていると突然ゾーイに起こされ、焚き火を囲んで2人で語らう。国外脱出を目指す者同士、彼女の思いを聞き、音楽を演奏してオーナーに追い出される。
ゾーイの刹那的な様子ともう会わないと確信しているからこその本音、馬鹿騒ぎ。そのどれもが”今を生きている”感を強く意識させるエピソードだった。
一方、ジャロッドとのエピソードはどれもスリリングだ。
彼は復讐のために手段をいとわない。主人公は何度も銃を向けられ、その状態で会話をするため、余計なことを言って殺されてしまうのでは?という緊迫感がある。
モーテルでの出来事はサイコスリラーで、唐突でショッキングな幕切れに身震いした。
1人のキャラクターにつき多くのエピソードが用意されており、あるシナリオでの選択が全体を貫く大きなストーリーに影響を与える。
単体では意味の薄いエピソードでも、全体を通して見たときに意味のあるものになっている。そうした作りが良かった。
主人公一人ひとりの旅が終わるごとに、国家の運命を決する選挙の日のワンシーンを見せられる。そのたびに興味を引かれ、主人公たちが知り得なかった結末を知りたい、この国の行く末を見届けたいという気持ちになる。
それでも、筆者が思うに、本作の肝はその道中で出会うキャラクターたちとのエピソードだ。
主人公が交代しても、キャラクターたちは変わらずペトリアにいて何度も出会う。
短時間でも共に行動し、話をするうちに彼らのバックグラウンドが理解できるようになる。
彼らの想いや苦悩を理解し、寄り添い、もしくは全く共感できず、嫌いになるキャラクターもいるかもしれない。
キャラクターへの愛着はエピソードを積み重ねるからこそ生まれる。キャラクターとの交流は本作で一番おもしろいポイントであり、メインストーリーより、むしろこちらにこそゲームの醍醐味がある。
国家存亡に関わる「運命の日」までのカウントダウン
道中のエピソードが入れ替わってもストーリーが破綻しないのは主人公が変わっても維持されるメインストーリーがあるからだ。
エピソード中に現れる会話の選択肢や行動のなかにはメインストーリーに影響を及ぼすものがあり、エンディングに影響する。
ランダムに選ばれるエピソード群にもときおり核となるストーリーが挿入され、運命の日(選挙の日)まで日一日と進んでいく。
ストーリー上は6人の主人公が順々に国外脱出を試みる。個人の成功・失敗に関わらず、全体を通した大きなストーリーはそのまま進行する。1人の脱出劇が終わると、ソーニャの番組で次の主人公を選ぶ。
番組には過去の行動が反映され、「トラックに乗り込んで国外脱出しようとしたが、捕まった」というように前回の主人公の行動や国内情勢について、ニュースの中で触れられる。
国境を超える方法は複数あり、一度使ったルートは対策され、次回には使えなくなってしまう。手段が狭められていくことによって飽きずに毎回スリリングな体験ができた。
道中で登場人物たちからもらった能力(取得済みアビリティ)は次の主人公に引き継がれる。ピッキングやハッキング、ラッキースター(強運)など旅に役立つ能力だ。
体力回復のシリアルバーを買うにも、バスやタクシーに乗るにもお金がかかる。
ストーリー内で収入を得る機会は少なく、その辺の店の鍵を開けて金銭をくすねたりするのが主な収入源になるため、ピッキングやハッキングのおかげで旅の自由度が高まる。
筆者がメインストーリーをクリアするまでのプレイ時間は6時間半。2周目が終わった時点で13時間半だったため、周回だからプレイ時間を短縮できるというわけでもなかった。
クリア後は「新しいゲーム+」ではじめることができ、取得した特殊能力は最初からそのまま使用できる。これにより初回プレイよりも楽に進められる。
ちょっと楽しいミニゲームで気分転換
キャラクターとの会話や探索以外にも挿入されるミニゲームがなかなかおもしろい。
エアホッケーや『ポン』、カーソルを動かして曲を演奏する音ゲー、サッカーのPKなど種類も豊富だ。
歩く、話す、探すと単調になりがちな本作のなかで、これらのミニゲームは清涼剤的な役割を担っている。
ミニゲームの勝ち負けがストーリーに大きな変化を及ぼすわけでもないため、プレイヤーもリラックスした気持ちで楽しめるのも良い。
ジョンが突然「俺はあだ名は壁だった」とか言ってPKがスタートしたのにはビックリした……(突然な感じがおもしろい)
懐かしい雰囲気を作り出す音楽
本作の音楽はバラエティに富んでいる。
エレクトロな曲が多めだが、アコースティックギターとボーカルがメインでホッとする「The Road」、緊迫感のある「Chase」、懐かしい雰囲気のあるディスコチューン「Hit the Road」などエピソードに合わせてさまざまな曲がチョイスされる。
Spotifyでサウンドトラックが配信されているので、ぜひ聞いてみて欲しい。(広告が入るが無料で聞くことができる)
これらの曲が入ったカセットが本作では収集要素として扱われており、行く先々で発見できる。(ランダム性のおかげで取り逃すと次に同じ場所のエピソードが出るまで回収できない)
カセットは特定の場所で聞けるようになっており、車のカーステレオや店舗のジュークボックス風の物、放置されているラジカセなどに所有のカセットを入れると音楽が流せる。
カセットなのが時代を感じるぜ……!
誰とも遭遇せず、車を運転するエピソードがあるのだが、このときにカーステレオで「Chase(カセット名はA crazy chase)」をかけて、果てしない道をノリノリで流すのが筆者のお気に入りだ。
滝の前に行ったら、椅子に腰掛けラジカセで「Far From Home」を流し、これまでの道のりを思い返して感慨に浸るも良さそうだ。
一人称視点苦手でもほぼ3D酔いしない
本作は一人称視点で進行する。筆者は一人称視点のゲームが大の苦手。少しプレイしただけで3D酔いしてしまう。視点移動の激しいFPSだけでなく、ウォーキングシミュレーターの類も苦手だ。
本作をプレイする際も酔ってしまうのでは?と警戒したが、ほとんど酔わなかった。
- 歩いているときの視界の揺れが少ない
- 探索の時間が短め
- キャラクターとの会話がところどころに挿入され、視点移動の頻度が少ない
上記の3点が3D酔いしなかった要因だったと思う。
一部行き詰まって探索時間が長くなったときには少し酔いを感じたが、その1ヶ所だけで、その先では無事だった。
本作は3D酔いが原因で一人称視点のアドベンチャーを避けているプレイヤーも比較的プレイしやすい。
総合評価
『Road 96』はさまざまな人間模様が描かれるロードムービー的アドベンチャーだ。
独裁国家からの脱出を試みる若者を主人公として、旅の道中で個性豊かなキャラクターと出会い・別れを繰り返し、命を賭けた国境超えに挑む。
多くのエピソードからランダムに構成されたストーリーは”ひとり旅”の一期一会の雰囲気を作り出す。
メインストーリーも充分興味を引くが、肝となるのは道中の何気ないエピソードだ。共に行動し、話をするうちに彼らのバックグラウンドが理解でき、愛着が生まれる。
エピソードをコンプリートするにはストレスが多いが、一度のプレイでその場限りの出会いを楽しむには申し分ない。アドベンチャー好きや映画好きにもおすすめしたいタイトルだ。
- ランダム性によるプレイヤーだけの旅ルート
- 作り込まれたキャラクター
- 優れた音楽
- 息抜きにピッタリのミニゲーム
- すべてのエピソードを見るのに手間がかかる
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