『プリコラージュ -IDOLIZED-』はSNSを題材にしたアドベンチャーゲームだ。
物語はK-POPアイドル・セナの失踪からはじまる。プレイヤーはセナのSNS上の投稿から手がかりを見つけ、行方を追っていく。
ミステリーとして楽しめる作品だが、単なる謎解きゲームでは終わらない。SNSに潜む危険性やファンによるアイドル消費など、社会問題を反映した作品でもあった。
この記事では『プリコラージュ -IDOLIZED-』のレビューをお届けする。
レビュー
SNSを駆使してアイドル失踪の真相をつかめ
プレイヤーは失踪したK-POPアイドル・セナの行方を追って、ネットの海に潜り込んでいく。
登場するのはInstagramやX(旧Twitter)を模したSNSだ。セナのアカウントをはじめとして、関連するタグやコメント伝いにさまざまな投稿を見て、真実につながるヒントを拾い集めていく。
投稿された画像が直接手がかりになることもあるが、投稿内容からワードを抜き出し、ウェブ検索した先で手がかりを見つけることもある。
どんなものを探せばいいのかはTodoリストとして表示されるため、迷うことはない。リスト化されているのは便利ではあるが、お使い的に感じてしまう側面があり、没入感を削いでしまう。できるだけ見ずにプレイすることをおすすめしたい。
操作感は日頃SNSを利用しているときと同様だ。タグから投稿を追いかけたり、コメントからアカウントを見に行ったり、SNSに慣れた人ならスイスイと進んでいける。
やることはシンプルだが、投稿から糸口を見つけて、点と点をつなげていくのは楽しい。筆者のプレイ時間は1.5時間(全エンディング回収まで)で、気軽に遊べるのも良かった。
マルチエンディングとなっており、物語の結末はさまざまあるが、ブツッと切れるようなエピローグもあり、その後の行く末がもう少し描かれていてもよかった(そのおかげで余韻が残ったとも言える)。
終盤まで真相が読めない、短編ミステリー作品だ。
君の投稿全部見てるよ……今日はタピオカ飲んだんだね……うへへ……。
キモッ!ネットストーカーやめろ!!
SNSには危険がいっぱい!実践的「SNSの使い方講座」
本作にはケーススタディ的な「SNSの使い方の教科書」としての一面もあった。
プレイヤーが手がかりをつかむのは、投稿者がなんらかの「やらかし」をしたときだ。手がかりを見つけるたびに、SNSでのやらかし事例が自然と集まることになる。
たとえば、作中で取り上げられた画像投稿では、以下のものが挙げられる。
- 路上にあったガラスの靴を撮影して投稿する
- 映り込んだスプーンに外の景色が反射する
- 画像の隅に制服が映り込む
これらの行為は意図したものではないが、悪意を持った第三者によって居場所が特定されてしまう危険性がある。
上記以外にも乗車したタクシーの運転手による投稿など、自身の投稿ではないケースもあり、さまざまなパターンからSNSの怖さを体験できる。
仲間内で見せるために嬉々として犯罪行為の様子を投稿するケースもあったね。
バイトテロの亜種みたいな投稿だったわね。
消費されるアイドル
作中で言及されるとおり、アイドルの語源は偶像だ。
ファンは画面に映し出されるアイドルに自分の理想を投影し、アイドルは求められる姿を見せる。
セナを推すファンも他のアイドルファンと同じように、自分が思い描くとおりのセナであることを求めていた。
その一方で、セナは本来の自分とイメージの間にギャップを感じていた。その証拠に、セナはファンからの声として悪口のほかに「イメージと違う」「セナはそんなことしない」と言われていることを明かしている。
作中で描かれるのはセナとファンの歪な関係性だ。セナを自分の思い通りに動くモノとして消費するファンとそれによって疲弊するセナの姿を見るに、セナ自身よりもモノとしてのセナのほうが重要視されている。
結末のネタバレを含む (+で開く)
終盤、ファンがセナだと思っていた人物は、セナにすり替わっていたエリカだったと判明する。
ファンはセナの投稿を見ていたにもかかわらず、セナが別人にすり替わっていたことに気づかなかった。これは作り上げられた虚像としてのセナしか見ていない証だ。
ファンとの関係性以外にも同級生に個人情報を売られる、家を特定されるなどの犯罪行為も描かれており、事態はより深刻さを増している。
SNSによってファンがアイドルをより身近に感じられるようになった反面、アイドルが精神的ダメージを受ける機会も増えてしまったように思う。
著名人がなんらかの被害を受けた際に「有名税」という言葉が使われるのを目にするが、セナが受けた被害は「有名税」の一言で片付けられるものではない。アイドルとは職業の一種であって、著名人であるから誹謗中傷や犯罪行為を我慢しなければならないわけではない。
プレイヤーがもし彼、彼女らの置かれている状況を知らなかったとしたら、本作をプレイすることで華やかさの裏にある過酷さが理解できるだろう。
本作がキャッチーな面を見せつつも、アイドルを取り巻く状況について問題提起していることには注目したい。アイドルとファンの関係性について、今一度考え直すきっかけになりえる作品だ。
せめて消費している自覚は持っていたいよね。
参考図書
総合評価
総評:非常に良い
4/5
『プリコラージュ -IDOLIZED-』はSNSを駆使して事件の真相に迫るミステリーアドベンチャーゲームだ。
InstagramやX(旧Twitter)を模したSNSを使い、投稿された画像から手かがりを見つけ出し、アイドル失踪事件を調査していく。
タグを使ってさまざまな投稿を見たり、コメントからアカウントに飛んだりといったSNS特有の作りを再現することで小気味よくプレイでき、操作も快適。終盤の展開には驚きがあり、先の読めないストーリーも良かった。
SNSの危険性を逆手に取ったゲームシステムや消費される者とする者を描くなど、社会問題を反映させた作りになっており、単にキャッチー作品では終わらない。
リアリティのあるSNSを舞台にした作品に興味のある人や気軽に遊べるボリュームのミステリー作品を探している人におすすめしたい作品だ。
- 先の読めないストーリー
- SNSの危険性を表すゲームシステム
- 描かれる無自覚のアイドル消費
- 短めのエピローグ
『プリコラージュ -IDOLIZED-』
- 対応機種:PC
- 発売日:2024年2月19日
- 開発元:HIJIKI
- 発売元:Annulus
- ジャンル:ミステリーアドベンチャー
- 筆者プレイ時間:1時間30分(全END回収まで)
- レビュー時のプレイ機種:PC (Steam)
※2024年3月21日時点
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