『じゃあ、また(Once Again)』は「別れ」をテーマにしたドラマチックなアドベンチャーゲームだ。
物語は10歳の少年・ナツが誕生日にタイムスリップするところからはじまる。その後も誕生日を迎えるたびに会いたかった人に会いに行く。
印象的なイラストとシンプルなテキストメッセージ形式で描かれる2人の夏は微笑ましく、最後には大きな感動が待っている。濃厚な物語が心に残る作品だ。
本記事では『じゃあ、また』のあらすじを紹介した後、ゲーム内容をレビューしていく。
ジャンル | アドベンチャー |
発売元・開発元 | RB Wolf Design |
プラットフォーム (ストアリンク) | PC(Steam) iOS Android |
発売日 | Steam:2022年10月3日 |
プレイ時間 | 1時間 (クリアまで) |
- 感動的なストーリーが好きな人
- 泣きたい人
『じゃあ、また』あらすじ
6月6日、10歳のナツは暑い部屋のなかで無為な時間を過ごしていた。
ふと宿題が気にかかり、ゴミ箱に入った「ぼくのおかあさん」を拾い上げる。
母についての作文なんて書けない。だって母さんについてなんて写真のなかでしか知らないのだから。
ナツが昼寝から目を覚ますと「Happy Birthday! 願い事を」と表示されたディスプレイとケーキが1ピース置かれていた。
目を閉じて願い事をすると、目の前にある人が現れる。
『じゃあ、また』レビュー
失った時間を埋めるようにそっと積み上げていく物語
『じゃあ、また』で描かれるのは母と息子が過ごすかけがえのない時間だ。
小学校の宿題「ぼくのおかあさん」をきっかけに、タイムスリップできるようになったナツは写真のなかでしか存在しなかった母と出会う。母は自分を息子とは認識しておらず、ナツは最近引っ越してきた写真に興味のある子どもとして接する。
このタイムスリップはナツの誕生日にだけ起こるものであり、今まで無気力に生きてきたナツは誕生日を心待ちにするようになる。母との出会いによって生きる目的を見出していくのだ。
回を重ねるごとに、ちょっとずつ母に心をゆるして甘えられるようになっていくナツの姿が微笑ましい。
一方で母の態度はそっけない。無表情でタバコをふかしながらカメラを構え、ぶっきらぼうに会話する。母にとって、ナツはたまに会う近所の子どもでしかない。
2人の距離はもどかしくもあるが、母が自然体で心の赴くままに行動している様子はカッコよい。
そして2人が過ごす夏はいよいよ「最後の夏」を迎える。
そこで母がナツにかけた一言でこれまで少しずつ近づいてきた心の距離がギュッと縮まる。今までのエピソードが筆者のなかで走馬灯のように思い起こされ、涙が堪えられなかった。
2人が過ごす最後の夏とそれに続くエピローグは忘れられないものになった。
クリア後に振り返るとタイムスリップで母以外の重要な人に会う回もすごく良かった。
筒井康隆の短編で『世にも奇妙な物語』としてドラマにもなった『時の女神』を思い出すわね。あれも時間を遡って何度も大切な人に会いに行く話だったわ。
カメラを介してつながる2人
『じゃあ、また』で重要な役割を果たすのがカメラだ。
母はカメラマンで、ナツも写真に興味があると言って近づいたことから、2人のエピソードは写真を中心に進んでいく。
ナツは母からカメラの使い方を教わり、母を中心にさまざまなものを写真に納めるようになる。そのタイミングでカメラの焦点や露出を調整して撮影するインタラクションが発生する。
本作で用意されたインタラクティブな要素のなかでもカメラ操作は多い。
本作ではカメラのインタラクションを通じ、プレイヤーがナツとして大切なひとときを切り取ることで心にも映像を焼き付けるようとしている。
ナツが勝手に撮った自撮り写真からは関係性が変化していく様子が見えて最高だったなー!
プレイヤーが作品に色を与えていく
『じゃあ、また』のゲーム画面は漫画のコマ割りのようなイラストとメッセージアプリのようなテキストによって構成されている。
タイムスリップした直後、ナツの周りは真っ暗だ。プレイヤーはマウスをドラッグし、コマのなかをこすって闇を取り払い、色を与えていく。すると世界は鮮やかに色を取り戻す。
ナツが過ごす現実はずっとモノクロのまま。タイムスリップしたときだけ色彩鮮やかな世界が広がる。色はナツの心を表しており、母との時間だけが充実感のある色を持った世界であることを印象付けているのだ。
モノクロからカラーに変わる扉をプレイヤーが開けることでナツと母の輝く時間を味わうことができる。その大切な作業がプレイヤーに託されている。
『じゃあ、また』総合評価
総評:傑作
5/5
『じゃあ、また』は別れをテーマにしたドラマチックなアドベンチャーゲームだ。
無気力に生きていた少年・ナツが10歳の誕生日に起こったタイムスリップをきっかけに毎年タイムスリップしながら、母との思い出を作っていく。
メッセージアプリ形式のテキストはシンプルで少ないが、多くの余白と美しいイラストがキャラクターの心情を雄弁に語っている。
カメラやモノクロとカラーを使い分けるインタラクションによってプレイヤーはナツに乗り移り、物語に没入できる。
涙なしではプレイできない。すべての人にプレイしてほしい、名作アドベンチャーだ。
- 少ないテキストで心情を豊かに表現
- 撮影を通じてナツに自分を投影するインタラクション
- モノクロとカラーの切り替えに意味を持たせている
- 特になし
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