『No Longer Home(ノーロンガーホーム)』は「別れ」をテーマにしたアドベンチャーゲーム。
開発のハナ氏とセル氏の実体験に基づき、フィクションを織り交ぜながら制作された半自伝的作品だ。
主人公のボーとアオは大学卒業を機に共同生活を解消する。別れは2人が望んだものでなく、仕方のないものだった。
人物の感情が繊細に描写され、プレイヤーが過去に経験した別れをふと思い出させる。誰もが心に持っている感情を揺さぶるような、そんな作品だ。
操作はポイントアンドクリックによる探索と会話を選択するだけ。シンプルなシステムとなっている。
この記事では5つのポイントを上げながら、 『ノーロンガーホーム』 をレビューしていく。
ジャンル | アドベンチャー |
発売元 | Fellow Traveller |
開発元 | Humble Grove Hana Lee Cel Davison Adrienne Lombardo Eli Rainsberry |
プラットフォーム (ストアリンク) | Nintendo Switch Xbox One PC(Steam) |
日本語対応 | ◯ |
発売日 | Switch:2021年10月7日 Xbox:2021年10月7日 Steam:2021年7月30日 |
プレイ時間 | 1.5時間 |
- 心の機微に触れたい人
ストーリー(あらすじ)
ボーとアオはロンドンで共同生活を送っていた。
大学卒業とともにアオは日本へ帰国することになった。
1年間続いた共同生活に終わりが迫る。
心にモヤモヤしたものを抱えながら生きてきた人たちへ
『ノーロンガーホーム』には明快なストーリーはない。
人生の次のステージに進むときに感じる漠然とした不安や思い通りにならないことへの苛立ち、過ぎ去った日々への感傷など、心の陰影が描かれている。
「フライアリー・ロード」
本編に入る前に、前日譚にあたるプレリュード(前奏曲)をぜひプレイしてほしい。
ボーとアオ、2人のパーソナリティを知ることによって、作品への理解が深まる。
同居前、ボーが親の期待に添えなかった罪悪感や性自認に対する違和感を口にすると、アオがそれに共感する。 2人が心を開いて感情を分かち合う瞬間を描いたのが「フライアリー・ロード」だ。
Friary Road……イングランド、バーミンガムの地名(道の名前)
『X-ファイル』の小ネタも良かったね!
「ノーロンガーホーム」
アオは日本に帰国するため引っ越しの準備を進めなければいけないのに、やる気が出ない。
一方のボーもアオとの生活にあまりになじんでいたため、心が揺れている。
「アオの机はいつも汚いな」なんて軽口を叩くことはあっても、お互いの存在は何にも代えがたい。
会話から、2人ともなんとなく心ここにあらずといった様子が伺える。
やっと見つけた理解者と離れ離れになる心の痛みが本作のテーマだ。
日常生活のなかで、不安や苛立ちが暗に表現され、プレイヤーの心に2人の感情がジワジワとしみ込んでくる。
アオは日本に帰りたくない。ここで暮らしたいと言う。ヒステリックになったり、声高に感情を表現するわけではなく、どこか諦めもありながら、行き場のない感情をとつとつと吐き出す姿に、心を締め付けられた。
人の心は単純なものではない。複雑で、表現しがたく、繊細なものだ。この作品にはそうした心のひだが丁寧に描かれている。
「このシーンで、キャラクターはこういう気持ちです」というように感情をいちいち言語化してセリフで説明されるのに慣れ切ったプレイヤーは戸惑うかもしれない。
しかし、2人のふるまいや言葉の行間から気持ちを思いやったり、想像できるプレイヤーならきっと楽しめる。
誰しもが過去に体験したことのある人生の忘れがたいシーンを思い出すだろう。
青春ドラマっぽさが印象的
『ノーロンガーホーム』では青春を感じさせるシーンが挿入される。
気の合う仲間が集まって、屋外でバーベキューして語らったり、
暗がりで肩寄せあってゲームをしたり、
これが騒々しい乱痴気騒ぎなら辟易したかもしれないが、みんな節度を保ち、大人としてふるまっていた。ちょっと軽口は叩いても、残り少ない貴重な時を惜しむように楽しんでいたのが印象的だった。
ファンタジー描写で見えるキャラクターの心(考察あり)
『ノーロンガーホーム』で描かれるのは日常を切り取ったものがほとんどだ。
そこに、突如として不思議な動物や謎の浮遊体が現れる。
一見意味不明な存在だが、これらに2人の心の内が映し出されている。
なぜ現実にファンタジーを混ぜ込んだのか不思議に思っていたが、本作を進めていくうちに必要な存在だったと気がついた。
作品のよきスパイスとなっている。
舞台のような演出とリラクシングな音楽
『ノーロンガーホーム』 の演出は演劇の舞台を思わせる。
部屋のなかでキャラクターに照明が当たる姿はセットのなかでスポットライトを浴びる役者のようだ。
壁が動く様子はパネルのようで、おもしろい。
BGMはアンビエントやリラクシングなものが中心で、残された時間を惜しんでゆっくり味わっているような印象を受ける。
セリフは文字で表現され、キャラクターがしゃべるときには音声ではなく、独特のSEが入っている。BGMとの馴染みがよく、違和感はない。
それぞれの演出が重なり、ドラマチックな世界観を生み出している。
プレイ時間は1.5時間と短め
『ノーロンガーホーム』のプレイ時間は短く、プレリュードをあわせても1.5時間だった。
探索をスキップすれば、さらに短くなるだろう。
しかし、より深く味わうには2人が暮らした部屋を隅々まで探索し、生活の痕跡をたどることをおすすめしたい。
1.5時間というと短く感じるが、作品のテーマに集中して要素が絞り込まれた絶妙なボリュームだった。これ以上長引かせたら、冗長になってしまったかもしれない。
ローカライズがとても優れており、スムーズにプレイできた。
もう少し作品の世界に浸っていたいような……なごり惜しさを感じる良ゲー
総合評価
総評:非常に良い
4.5/5
『ノーロンガーホーム』 は別れの感情に焦点を当てたアドベンチャーだ。
大学卒業を機に一番の理解者と離れて暮らさなければならない若者の不安や苛立ちを繊細に表現している。
バーベキューや夜のゲームのような青春っぽい描写も騒がしくなく、落ち着いていて好感が持てた。
演劇の舞台を見るような演出とリラクシングな音楽が本作のドラマ性をより高めている。
もう少し2人や仲間たちの物語を味わっていたかった。
本作は静かに心の琴線に触れるような体験を求めるプレイヤーにおすすめしたい作品だ。
- 複雑な感情表現
- プレイヤーの共感を誘うシナリオ
- ドラマチックな演出
- ボリュームがもう少し欲しい
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