『The Sun Shines Over Us』は、いじめをきっかけに心の傷を抱えた高校生・メンタリが、新しい学校でクラスメイトたちと交流しながら、少しずつ日常を取り戻していく姿を描いたノベルゲームだ。
本作はメンタルヘルスを題材に、フラッシュバックに苦しむメンタリや彼女を支える友人たち、ケアする側が抱える問題を中心に物語が展開する。心の傷がかんたんに消えるような話ではなく、小さな一歩の積み重ねを経て回復していく様子をじっくりと描いた作品だ。
この記事では『The Sun Shines Over Us』のレビューをお届けする。
いじめで傷ついた高校生・メンタリと仲間たちの物語
本作の舞台はインドネシアの高校だ。前の学校でいじめに遭い、転校を余儀なくされたメンタリが、仲間たちに支えられながら心の傷と向き合っていく姿が描かれる。
転校先には、メンタリを常に気にかけてくれる幼なじみのキラナ、頼りがいのある学級委員のアユ、不良っぽいアレックスなど、個性豊かなクラスメイトたちがいる。彼らとの何気ない交流を通じて、少しずつ距離が縮まっていく。

ゲームシステムはオーソドックスなノベルゲームのスタイルで、テキストを読み進めながら選択肢によってメンタリの行動を決めていく。選択肢の頻度は多く、日々の小さな判断の積み重ねがエンディングに影響する。「誰かに話しかける」「助けを求める」といった些細な選択が、メンタリの今後を大きく左右していく仕組みだ。

インドネシアが舞台とはいえ、描かれるのは自分の存在意義や友人関係、将来への不安といった、10代なら誰もが抱える普遍的な悩みだ。遠い国の話ではなく、身近な物語として受け取れるはずだ。

話しかけられることすら怖かったメンタリが少しずつ日常を取り戻すまで
転校してきたからといって、心機一転してすぐさま楽しい高校生活が送れるなんてことはない。いじめによって心に深い傷を負ったメンタリは、クラスメイトに話しかけられただけでも激しく動揺してしまう。罵声を浴びせられるのではないかと不安になり、それが引き金となって過去の記憶を呼び起こし、パニックになってしまう。

クラスメイトに助けてもらっても、なにか悪意があるのではないかと疑って見てしまう。自分に助けてもらう価値などないと思い込んでいるからだ。いじめによって、ものの見方そのものが歪められてしまっている。

それでもクラスメイトたちは何度も手を差し伸べてくれる。彼ら彼女らは、仲間を助けることになんの疑問も抱かない。メンタリが自分の価値を見失っているあいだも、「私たちは友だちだ」と当たり前のように受け入れる。その姿勢はメンタリにとって大きな助けとなっていた。

クラスメイトに支えられたメンタリはできることからトライしてみるようになる。ひと言だけ声をかけてみるとか、具合の悪そうなクラスメイトのために誰かを呼んでくるとか、それ自体は小さなことに見えるかもしれないが、メンタリにとってはとても勇気がいることだ。

そうして、信頼関係を築いた仲間たちと一緒になにかを成し遂げたときのメンタリの姿からは、日常がだんだん楽しいものへと変わっていく充実感が伝わってくる。


本作が描いているのは、いじめによる傷が「なかったこと」になる話ではない。うまく話せた日があったかと思えば、ささいなきっかけでフラッシュバックを起こし、自己嫌悪に陥る。それでも信じてくれる仲間がいるという感覚が、支えになり自尊心を取り戻す助けとなる。
いじめの苛酷さと、「ありのままでいい」と受け入れてくれるコミュニティの力。その両方を具体的な出来事として積み重ねる。三歩進んで二歩下がるような地道な回復プロセスそのものが、本作の軸だ。
支える側も疲弊する、ケアすることの難しさ
メンタリを支えるクラスメイトたちも、悩みのない完璧な人間ではない。学業は優秀だが喧嘩っ早いアレックスや、虚弱体質ですぐ倒れてしまうサーシャのように、わかりやすい問題を抱えているキャラクターもいる。

一方で、何の悩みもなさそうに振る舞いながら、実はプレッシャーと戦っているキャラクターもいる。関係が深まるにつれて、彼ら彼女らの弱さや不安も表面化してくる。
注目したいのは、ケアする側の疲弊が描かれていることだ。メンタリの幼なじみであるキラナは明るい性格で、いつもそばで支えようとしてくれるが、ある出来事をきっかけに突然メンタリを避けるようになってしまう。メンタリは嫌われてしまったのではないかと不安に駆られるが、本人には聞けず、学級委員のアユに相談してもはぐらかされてしまう。数日が経ち、キラナは何事もなかったかのように戻ってきて、「自分も回復するためにひとりになる時間が必要だった」と告げる。


メンタリ視点では急に距離を置かれたように見えるが、キラナはむしろ彼女を長く支えていくために、感情が擦り切れてしまう前にいったん立ち止まることを選んだのだ。誰かを支えることは簡単ではなく、サポートする側にも休息が必要だという、ケアされる側からは見落とされがちなポイントが描かれている。

上記は一例だが、逆にメンタリに救われるキャラクターもいる。本作は、いじめで傷ついたひとりの少女をみんなで救うだけで終わるのではなく、支えられた経験がまた別の誰かを支える力になっていくケアの連鎖を描いている。

コンパクトなボリュームとメンタリの心情が反映された選択肢
昨今のリッチなノベルゲームと比べるとUIはシンプルだ。バックログやスキップといった基本機能はひと通りそろっており、プレイ中に不便だと感じることはなかった。日本語訳はところどころ直訳っぽく思える部分もあったが、物語の理解を妨げるほどではなく、大きなストレスにはならない。
全15章構成で、1章あたりは10数分ほど。トータルでも3時間前後でクリアできるボリュームだ。精神的に疲れてしまう展開も多いため、章を細かく区切ることでひと息入れやすい構成になっている。
選択肢はメンタリの行動を決めるものが多く、日々の選択の積み重ねがエンディングを左右する。印象的だったのはメンタリがパニックに陥り、選択肢が「……」だけになってしまうシーンだ。なにかを選ぶ余裕がないメンタリの精神状態をそのまま選択肢の表現に落とし込むことで、プレイヤーがメンタリと同じ状況を味わえるように作られている。

総合評価
総評:傑作
5/5
『The Sun Shines Over Us』には、劇的な展開も都合良く解決するストーリーもない。ただ、信じてくれる人がいれば少しずつ前に進めるという、シンプルで実直な物語だ。
支える側の葛藤にも目を向けて、一方通行ではないケアの形も描いている。
センセーショナルな演出に頼らず、メンタルヘルスの問題と真摯に向き合った作品だ。
- じっくりと描かれる回復のプロセス
- ケアする側の難しさにも触れた物語
- 精神状態とリンクした演出
とくになし
『The Sun Shines Over Us』
- 対応機種:Nintendo Switch、PC、Android
- 発売日:2024年5月2日(Switch)、2024年9月26日(Steam)
- 開発元:Eternal Dream、Niji Games
- 発売元:Soft Source Pte. Ltd、CRX Entertainment Pte Ltd
- ジャンル:ビジュアルノベル
- 筆者プレイ時間:3時間(エンディング到達まで)
- レビュー時のプレイ機種:PC (Steam)
※2025年11月27日時点
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このページで使用している『The Sun Shines Over Us』のゲームキャプチャ画像はEternal Dream、Niji Games、Soft Source Pte. Ltd、CRX Entertainment Pte Ltdの著作物です。転載、配布等は禁止いたします。



