ギャルゲーと呼ばれるジャンルでは、ヒロインにちやほやされた主人公がそのうちのひとりと結ばれるお気楽な夢物語を描いたものが多い。
現実の恋愛と違い、ほぼ、楽しい部分のみにフォーカスしているのが特徴だ。
しかし、このゲームは一味ちがう。一生心に残るようなトラウマ級の重い恋愛を味わわせてくれるのだ。
『WHITE ALBUM2 幸せの向こう側』は2010年に序章がPC用美少女ゲームとしてリリースされ、2012年にPS3、2013年にPS Vitaへ移植された恋愛シミュレーションゲーム(ギャルゲー)だ。
このゲームのテーマは《浮気》である。
といってもシナリオは脳天気なものではなく、主人公の苦悩とヒロインの心情を深く掘り下げている。
プレイヤーは作中で何度も感情を揺さぶられるだろう。
この記事ではPS Vita版『WHITE ALBUM2 幸せの向こう側』のレビューをお届けする。
| ジャンル | 恋愛アドベンチャー |
| 発売元 | PS3・PSV：アクアプラス PC：Leaf |
| 開発元 | Leaf |
| プラットフォーム | PlayStation 3 PlayStation Vita PC (DMM / Amazon) |
| 発売日 | PS3：2012年12月20日 PSV：2013年11月28日 PC:2018年2月14日 (EXTENDED EDITION) |
| プレイ時間 | 50時間 |
- 心が抉られるほどツラいストーリーが好きな人
- 優れた音楽表現を求める人
ヒロイン紹介
小木曽 雪菜(おぎそ せつな)
峰城大付属3年生。校内のミスコンで2連覇しており、3連覇も確実と言われている校内のアイドル。
ヒトカラで鍛えた歌唱力は素人離れしている。
外ヅラはいいが、実はワガママで強引な一面を見せることも。
冬馬 かずさ(とうま かずさ)
峰城大付属3年生。1,2年次は音楽科に所属しており、3年から普通科に転科した。
世界的なピアニストを母に持ち、本人もピアノの演奏技術は高い。
授業中は大体寝ているなど、不真面目な態度を取っては教師に叱られ、主人公にフォローされている。
杉浦 小春(すぎうら こはる)
峰城大付属3年生。雪菜の弟と同級生。
主人公・春希と同じく真面目で面倒見が良いことから一部から小春希(しょうはるき)と呼ばれている。
バイト先のファミレスで先輩後輩関係となる。
和泉 千晶(いずみ ちあき)
峰城大3年生。主人公と同じゼミに所属。
ぐーたらした性格でいつも主人公にフォローされている。男友達のような関係性。
風間 麻理(かざま まり)
主人公のバイト先・開桜社の編集で、直属の上司。
仕事命のスタイルで、優秀さを買われて多くの仕事を受け持つ。
主人公のことを買っているが、無茶な働き方を心配している。
ストーリー(あらすじ)
『WHITE ALBUM2 幸せの向こう側』はストーリーが以下の3つのパートに分かれている。
- introductory chapter(序章)
- closing chapter(終章)
- coda(終結)
introductory chapter(序章)
峰城大付属3年生の主人公・北原春希は所属する軽音楽同好会で学園祭への参加を目指していた。
しかし、メンバーの揉め事によって同好会は空中分解。
諦めかけた春希がギターを弾いていると、それに合わせてピアノと歌声が聞こえてくる。
春希はピアノを演奏していた冬馬かずさと歌声の主・小木曽雪菜を見つけ出し、同好会に引き入れる。
時間が無い中で、猛練習をした3人は学園祭のステージで喝采を浴びるが、その直後から三角関係になってしまう。
closing chapter(終章)
introductory chapter(序章)から3年後。春希は大学とバイトで慌ただしい毎日を過ごしていた。
雪菜とはある日を境にギクシャクしてしまい、2人の間には距離ができてしまった。
春希はその間に同じゼミの和泉千晶や後輩の杉浦小春、バイト先の上司・風間麻理と関係を深めていく。
coda(終結)
closing chapter(終章)から2年後、社会人となった春希は雪菜と恋人関係を続けていた。
2人は春希の仕事も兼ねた海外旅行でフランスに向かうが、そこで春希はかずさと再会。
その直後、かずさがコンサートのために日本に戻ってくる。
胃が痛むほど切ないシナリオ
『WHITE ALBUM2 幸せの向こう側』はとにかくシナリオが良い。
浮気をテーマにすると、移り気な主人公がヒロイン間をフラフラしていつの間にかエンディングというお気楽な展開になりがちだ。
その点、このゲームでは、主人公・春希の自己嫌悪を隠さずに描いている。
ハッキリ言って、私は春希には同情しない。
春希は真面目でおせっかい焼きの青年とされているが、その実、とても優柔不断な性格であり、ヒロインたちが苦しむのはその優柔不断さのせいである。
特筆すべきは雪菜だ。
introductory chapter(序章)ではかずさに先駆けて春希を横取りする形になる。
この時点ではただの悪女にしか思えなかった。
しかし、雪菜はその後、長きに渡って後悔し葛藤しながら、辛さを出さずに春希を一途に思い続ける。
雪菜からは芯の強さを感じる。
closing chapter(終章)以降、物語は分岐する。そのほとんどが別れの部分まで書いているため、読み進めていくうちに胃が痛くなるほどツラい。
このゲームでは春希やヒロインたちだけではなく、二人を心配する友人たちの心情を含んだシナリオになっており、ありがちなギャルゲーとは一線を画した、シリアスなストーリー展開を見せる。
美少女ゲームからの移植だったことから、セクシャルな場面はカットされている。
他のタイトルと違うのは、ただなかったことにするのではなく、事後でそういった行為があったことを書いているところだ。
裏切りのなかに含まれるセクシャルな要素を、隠さずにシナリオに組み込んでいるのは英断だ。
私は一番心が抉られたのは杉浦小春ルート。
小春は春希との関係が深まるに連れて、別の問題も抱えることになる。これがとてもツラい。
総プレイ時間は50時間
近年、テキスト○○万文字以上！というようにボリュームを売りにしているゲームもある。
しかし、ゲームの質とはテキスト量だけで図れるものではない。いくらストーリーが長くても中身がスカスカではおもしろくない。
その点、このゲームのテキストは質・量ともに最高の水準に達している。
テキスト量は膨大で、音声をある程度飛ばしてスキップを使っても全てプレイするのに50時間程度かかった。
なぜなら、各ルートに入ってからの描写がとても丁寧だからだ。
クリア後にもう一度最初からゲームをはじめると新たに追加されているシーンがあり、それを読むことで初回プレイでは分からなかったストーリーの一部を見ることができる。
このゲームに無駄なテキストはほとんどなく、そのどれもがこのストーリーを書くためには欠かせない。
クオリティの高い50時間であれば、プレイヤーは飽きないし、夢中でプレイしてしまうことを身を持って感じた。
クリア後はデジタルノベル、ボイスノベルといった要素も解放されるため、さらにストーリーに浸ることができる。
音楽への強いこだわり
『WHITE ALBUM2 幸せの向こう側』のストーリーには音楽が大きく関わってくる。
春希とヒロイン2人が接近したのも音楽があったからだ。
introductory chapter(序章)での春希は軽音楽同好会の補欠扱いだ。理由は単純で、ギターが下手だから。
その裏付けとしてBGMが有効に使われている。
ギターを持ってチューニングする描写があればBGMにはチューニングしているところが流れるし、ミスをした描写では実際にミスをしたBGMが流れる。
多くのゲームはテキストでその描写はあっても、あえてミスをしている演奏をBGMに使うことは少ない。
このゲームはシナリオが評価されることも多いが、音楽へのこだわりも相当なものだ。
さらにゲーム内で主なボーカルとなる雪菜の歌唱も素晴らしい。
このゲーム内で重要な1曲「届かない恋」は3人の思いが交錯する、心情的に複雑な曲だ。
雪菜の歌声のなかに恐れや歌が好きだという気持ち、包容力、芯の強さが反映されている。
あるルートで最後に流れる「POWDER SNOW」は涙なしには聞けない。
音楽の細部までのこだわりとボーカルのクオリティの高さはゲームへの没入感に大いに貢献している。
細かなオプション設定
『WHITE ALBUM2 幸せの向こう側』には細かいオプション設定がある。
このゲームはギャルゲーとしては珍しく、主人公ボイスが収録されている。
自らを主人公と重ねてプレイする人からすれば、邪魔に感じるだろう。その場合はオプションで主人公ボイスをオフにできる。
私は主人公ボイスありでプレイしたが、映画を見ているようでボイスありで良かった。
それ以外にも印象的なシーンになると右上にフィルムマークが出る(名場面マーカー表示)
ここでセーブしておけば、何度もすぐに名シーンが見れますよということだ。
試みとしては面白いが、私は一部分だけ見直して満足することはないので、必要とは感じなかった。
総合評価
えむ総評：非常に良い
4.5/5
『WHITE ALBUM2 幸せの向こう側』は浮気をテーマにしたギャルゲーだ。
登場人物の心情を丁寧に描写したシナリオのクオリティーは特段に高く、ツラいシーンではプレイヤーの心がガッツリ抉られる。
音楽へのこだわりも強く、チューニング音やミスした演奏をBGMに使うなど、シーンの再現性を高めている。ボーカル曲はキャラクターの感情まで乗せた歌声で素晴らしく、印象深い。
さわやかな恋愛とは無縁のゲームであり、人を選ぶことは間違いない。
しかし、人の弱さと強さの描写はギャルゲーのなかでもトップクラス。ギャルゲー好きなら一度はプレイしておきたいタイトルだ。
- キャラクターの心理描写が巧み
- 長いプレイ時間、無駄のないテキスト
- こだわりが強い音楽表現
- (今見ると)絵柄が古い
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