『The Chant(ザ・チャント)』はカルト教団を舞台にしたホラーアドベンチャーゲームだ。
過去の亡霊に囚われた主人公・ジェスが旧友の誘いでカルト教団の集会に招かれる。そして儀式の失敗によって、異世界に引きずり込まれてしまう。
本作では現実とサイケデリックな異界を行き来し、トリップするような浮遊感のなかで異形と戦い、破壊的カルトの真の目的に迫っていく。恐怖を感じながらもずっとプレイしていたいと思える奇妙な味わいがある作品だ。
この記事では『The Chant』のあらすじ、登場人物を紹介した後、ゲーム内容をレビューしていく。
本記事はPLAIONから商品を提供いただき、作成しています。
作品概要
ジャンル | カルトホラーアクションアドベンチャー |
発売元 | Prime Matter (公式サイト) |
開発元 | Brass Token |
プラットフォーム (ストアリンク) | PlayStation 5 Xbox Series X|S PC(Steam) |
発売日 (日本語版) | PS:2023年3月30日 Xbox:2023年3月30日 Steam:2023年3月30日 |
プレイ時間 | 9.5時間 (クリアまで) |
『The Chant』はカナダ・バンクーバーのスタジオBrass Tokenが開発し、PLAION内のレーベルPrime Matterがパブリッシングを手掛けるカルトホラーアクションアドベンチャー。
海外版は2022年11月にリリースされており、2023年3月に日本語字幕、日本語音声(吹き替え)を収録した日本版が発売された。
あらすじ
ジェスは10代のころに起きた忌まわしい事件の記憶にさいなまれ続けていた。
ある日、ランニング中にフラッシュバックを起こすとすぐさま、旧友のキムに電話をかけ、グローリー島へと向かった。
出迎えに来てくれたキムとともに山道を抜け、「プリズムの科学」のメンバーと挨拶を交わす。
夜になり、メンバーは儀式のためにドームに集まる。神聖なお茶を飲み、チャントを詠唱しはじめると突然キムが逃げ出し、ジェスは気絶。儀式は失敗してしまう。
目を覚ますとドームには誰もおらず、ジェスはキムを探すため、闇に入り込んでいく。
キャラクター紹介
ジェシカ・ブライアーズ (ジェス)
薬学業界で働く女性。過去のトラウマに苦しんでいる。
スピリチュアル系は苦手だが、現状を変えるためにリトリートへやってきた。
虫嫌い。島での生活に不安を感じている。
キム・マラーリ
ジェスの旧友。
過去の出来事を境にしてジェスとの間に溝ができていた。
プリズムの科学の指導者・タイラーに心酔している。
タイラー・アントン
プリズムの科学の指導者。
穏やかに見えるが、支配的な一面も見え隠れしている。
ソニー・ソンティ
プリズムの科学の宣伝・マーケティングを担う。
父や兄に出資を求めるなど、教団を金銭面でも支えようとしている。
ハンナ・ウィルソン
指導者・タイラーの右腕。
タイラーに従属している。
マヤ・カラニ
教団内で一番落ち着きのある女性。
友好的で優しい性格だが、自身も心の傷を抱えている。
レビュー
破壊的カルトに集う人々の心の闇
『The Chant』が描くのは破壊的カルトの闇だ。
大仰なパフォーマンスを伴う神秘的な導きは、邪悪な人間の欲望を隠すためのカモフラージュでしかない。人の心の弱さにつけ込み、人々を支配して金を巻き上げる。欲にまみれた醜い姿を本作は映し出している。
主人公・ジェスが教団のメンバーと同じ白い服に着替えた直後、その姿を見たキムは「仲間に見える」と言う。一連の流れは入会者に対して仲間意識を植え付けようとしているように見える。ジェスは「カルトっぽくない?」と返すのだが、キムは「いいことに決まっている」と強引に意見を押し付けてくる。
心の弱い人、なにか拠り所を求める人はこうした手口で何度も教団の考えを刷り込まれると、いつの間にかそれを自分の意見のように信じ込んでしまうのかもしれない。
リトリートを探索すると「スピリチュアル自己評価フォーム」が読める。メンバーがなにを求めてリトリートに参加したのか、精神状態はどうか、恐れているもの(悩み)はなにかが書かれたメモだ。
カルトの指導者にとっては人を操るための鍵となる情報だ。そこにはメンバーがかけて欲しいと思っている言葉までが記されている。この「魔法の言葉」をかけることで、人々はかんたんに心を許し、指導者の言いなりになってしまう。その恐ろしさが垣間見える資料だ。
美しくも奇妙な精神世界
『The Chant』でプレイヤーは幾度となく異界に足を踏み入れる。
本編の前に挿入される前日譚では、怪しげな仮面を被った教祖が信者とともに祈り、闇の世界とのつながりを生み出す。プレイヤーは信者の一人を操作し、儀式からの脱出を試みる。逃すまいと追ってくる信者たち、真っ暗闇に紫がかった空。なにもかもが不気味で恐ろしい。前日譚のパートは時間にして5分にも満たないが、プレイヤーに緊迫感を与え、物語に自然と引き込む役割を担っている。
この信徒の女性と現在(ジェス)のストーリーがどう関わってくるのか、読み解くのに苦労したわね。
おかげで大量のメモを収集させられた!
ジェスを主人公とした現在に時を移し、序盤の見どころとなるのがドームでの儀式だ。メンバーが円になり、”神聖なお茶“を飲んで、チャントを唱える。その直後、前日譚と同じ紫の空が広がるのだ。そして突如激昂するキムの後ろで彼女を操るかのようにうごめく花(マンダコア)が妖気を漂わせる。
儀式の失敗によって、ストーリーは闇へと転換する。そこはこの世ならざる闇の動植物が息づく場所。メンバーが抱えた心の闇がジェスを取り込もうと迫る。
ジェスは裸足のまま暗い林道や朽ちた廃墟を進み、奇妙な仮面を被った”崇拝者”や、靄が立ち込める精神世界でグロテスクな異形のものたちと戦う。現実と精神世界を絶えず行き来し、境目がボヤけていくような感覚はトリップしているような気分だ。
朽ちた建物や過去の生活の痕跡が残る遺構は不気味だが美しい。なにか恐ろしいものが飛び出してくるかもしれないという不安を感じる一方で、興味をそそられ、じっくり探索せずにはいられない。
不穏なアンビエントサウンドも雰囲気作りに貢献している。通常時は不快成分が控えめのまろやかなサウンドに野鳥のさえずりがミックスされるなど穏やか。しかし、危険に陥ると一転、異形の者たちの叫びとも鳴き声ともつかない声が恐怖を増幅させ、プレイヤーの精神を逆撫でした。
章のクライマックスで流れる曲のドラムサウンドがデッドでとにかく良い!
気に入ってSteamでサントラ買ってたもんね。
謎が残るストーリー
『The Chant』のストーリーはスッキリと解決される部分が少ない。物語の背景を知るためには探索中に拾う数多くのメモを読んだり、ビデオ(リール)を見なくてはならない。
しかし、メモを細かく読んだところで、前日譚で描かれた人物とのつながりがぼんやりと理解できる程度だ。物語のすべてを理解できるわけではなく、ところどころは想像で補う形になる。
すべての情報をつなぎ合わせたところで、大きな謎が解けるとかそういうわけではない。過去にこの島で起きたいくつもの怪事件の断片が島内に散りばめられ、その残骸を拾ってはプリズムの秘密やこの島の歴史の一端を知るといった役割でしかないだろう。要は、雰囲気作りの役割が大きい。
メモは数多く、メモのなかだけに登場する人物も多いため、ただ読んでいただけでは頭に入ってこない。ムービーや会話で補完する部分があっても良かった。
ぶっちゃけ過去のメモは拾わずに捨てて、ストーリーの進行のみに専念するのもアリ!
苦労して集めたわりには知り得る情報が少なすぎたわね。
中盤までのストーリー展開は不気味な雰囲気と謎が調和し、好奇心をそそられたが、終盤が近づくにつれ早足となった。
指導者の中身が意外と薄味じゃなかった?
エンディングがあっけなかった。
用意されたマルチエンディングは短すぎて、とってつけた感は否めない。後味は筆者の好みだったが、もっと全体のストーリーと調和して意味のあるエンディングを見たかった。中盤までが充実していただけに、そこは少し惜しい印象だ。しかし、全体の良さを損なうほどではなく、十分に楽しんでプレイできた。
また、ローカライズが非常に滑らかで初めて聞くようなオカルト用語が頻出するのにも関わらず、まったくストレスを感じなかった。全員にボイスがあることもストーリーの理解を助けてくれた。
ハーブと瞑想の力で闇を生き抜け
『The Chant』のゲームプレイはオーソドックスな三人称視点のアクションアドベンチャーだ。マップを探索し、アイテムやメモを収集。時折、崇拝者や異形のものたちと戦闘を行う。
主人公には精神、身体、魂のゲージがあり、画面の左下に表示されている。
- 精神:暗闇や精神世界にいると減少する。0になると攻撃不可能になる。
- 身体:体力。敵から攻撃を受けると減少する。0になると死ぬ。
- 魂:特殊能力(プリズムアビリティ)や瞑想(精神を回復させる)で減少する。
瞑想すると魂ゲージが減って精神が増えるところがおもしろいわね。そんなことある?
プレイ中、とくに気を配ったのが精神だ。精神世界の深いところでの戦闘があると、そこにいるだけで精神が減少するうえに、敵から精神攻撃を受け続けるとパニック(攻撃不可)になって逃げるしかなくなってしまうため、回復を使用するタイミングを図り、精神攻撃を回避する立ち回りをしなければならない。
探索中に獲得したプリズムクリスタルを使ってアップグレードを行えば、それぞれのゲージの容量追加やダメージの減少といった能力を高められる。
攻撃は近距離攻撃を中心として超自然武器・炎系武器に分かれていて、敵によってどちらが有効か決まっている(アイテム:動物寓話集に記載)。
邪悪な魂を浄化するセージスティック、信者を罰するために使った炎のムチ、ウィッチスティックなど禍々しいものが多いが、攻撃方法はいたってシンプルで弱攻撃と強攻撃を組み合わせて振り回すだけだ。
セージやヨモギにそんな神秘の力があったなんて……。
香りによる精神攻撃なのか打撃による物理攻撃なのか。おそらくその両方ね。
そのほかにも敵をスタンさせる塩やトラップに使えるオイルなどの投てきアイテムが用意されており、打撃武器と合間に使いつつ戦う。
攻撃アイテムは探索中に拾った素材を2つ組み合わせなければならず、1つが欠けていては使えない(セージスティック:セージ+麻紐)。素材さえ持っていれば武器スロットを開いてR2ボタン(PS5の場合)を押すだけで瞬時に作れるため、時間のかかるクラフト要素はない。
回復アイテムや攻撃アイテムの素材は無限にあるわけではないため、回復するタイミングや敵を倒すか逃げるかの判断は所有アイテム数を見ながら行う。
戦闘自体はシンプルなもので終盤になると単調さも感じたが、とにかくゴリ押しで進んでしまうと肝心なときに有効な攻撃アイテムがクラフトできなかったり、回復がなくなったりするため、リソース管理をしながら進んでいくことにおもしろさがあった。
筆者はピンチに備えて魂ゲージを残しておきたいと考え、魂を消費して攻撃する特殊能力・プリズムアビリティを上手く使いこなせなかった。ストーリーが進むにつれ、プリズムアビリティの種類も増えていくのだが、消費に対してのリターンをあまり感じなかったため、もう少し強力なアビリティとしてバランスが調整されると良いだろう。
思ったより戦闘が多めでちょっと疲れた。
精神世界と言いつつ、大体のことは物理でぶん殴ったらなんとかなったわね。
プレイ時間は9.5時間
筆者のプレイ時間は9.5時間。探索している時間が長かったため、クリアのみを目指すのであればもっと短い時間になるだろう。ほどよいボリュームだと感じた。
本作は行動や会話の選択肢によって貯まる精神XP、身体XP、魂XPによってエンディングが分岐するマルチエンディングとなっている。それまでの流れにはほぼ変化がなく、すべてのエンディングを集めるにはまたイチからプレイする必要がある。
総合評価
『The Chant』は精神世界をさまようホラーアクションアドベンチャーだ。
人の欲望がうずまく現実世界とサイケデリックな精神世界を行き来しながらカルト教団の謎に迫る。
主な収集アイテムであるメモやリールは雰囲気を高めることに重点が置かれており、ストーリーには多くの謎が残る。また、あっさりしたエンディングには物足りなさを感じた。
戦闘はシンプルで終盤ともなるとマンネリ感は否めないが、限りあるリソースを管理しながら戦う面でおもしろさはあった。
細かい欠点が消し飛ぶほど、作り込まれた不気味な世界観を味わうだけでも価値のあるタイトルだ。オカルト、ホラー好きであればぜひともプレイしてほしい。
- サイケデリックな精神世界
- カルトの闇を映し出すシナリオ
- 不気味さを生み出すアートワークと音楽
- 多くの謎が残ったストーリー
- 少し弱いエンディング
個人的には最高におもしろかったわ。ずっとこの世界に浸っていたかった。
世界観がとにかく良かったね!
こんな人におすすめ
- スピリチュアル、神秘主義に懐疑的な人
- 廃墟、異界ホラーを好む人
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