『妄想凶ザナトリウム』は現実と幻覚が混じり合うサイコホラーノベルゲームだ。
妄想や幻覚が見える病気になってしまった主人公は入院した病院で初恋の女の子と再会する。2人きりの時間を経て距離を縮めていくが、次第に目の前の出来事が事実なのか妄想なのか分からなくなっていく。
エンディングで嫌な汗をかくようなじんわり怖い系のホラー作品だ。本作が描き出す恐怖はプレイヤーを音や演出でびっくりさせるジャンプスケアや、目に見えるグロテスクなイラストなどではない。それらが苦手なプレイヤーでも楽しめる。笑えるシーンもあり、ホラー一辺倒にならない作品でもあった。
本作は漫画家のぱげらった氏が制作、2023年にフリーのノベルゲームとして公開後、2024年にKEMCOからコンシューマ版(Steam版もあり)がリリースされた。コンシューマ版では描き下ろしのIFルートが追加されている。
この記事ではKEMCOからリリースされたコンシューマ版『妄想凶ザナトリウム』のレビューをお届けする。
本記事はKEMCOから商品を提供いただき、作成しています。
あらすじ
幻覚や妄想を引き起こすウイルス「スピリア」が蔓延した世界。
ルイはスピリアに感染し、治療のために入院する。

入院初日、院内で見覚えのある女の子を見つけ、その姿を追っていくと、彼女は屋上から身を投げる寸前だった。

登場キャラクター
ルイ

スピリアによる幻覚に悩まされている。
早期に治療を終え、剣道大会に出場するのが目標。
リザ

ルイの幼馴染で初恋の相手。
オカルトに傾倒している。
モネ

ルイの妹。
口うるさいが、面倒見が良い。
レビュー
見た目や語りに惑わされるな!幻覚に飲み込まれずに真実を見つけろ
『妄想凶ザナトリウム』はオーソドックスなノベルゲームだ。
選択肢によって物語が分岐していくシステムだが、複雑な分岐はない。ベストエンド到達への難易度は低く、物語をじっくり味わえる作りだ。

エンディング後、すぐ1つ前の選択肢に戻るボタンが表示されるのが親切だね。
主人公・ルイはスピリアという病気の影響で妄想や幻覚に悩まされている。
幻覚によって剣道の竹刀がグニャグニャに見えたり、奇妙な生物が見えたりすることで、ルイは精神的に参ってしまう。
病院に向かうバスのなかでも窓から怪物の姿が見え、入院後にも似たような怪物を見つける。落ち着いてもう一度見ると、実際はただの枯れ木であることが分かるが、それでも気味が悪いことには変わりない。




プレイヤーはルイの目線でさまざまな幻覚を見るうちに、なにが現実でなにが幻覚なのか、わからなくなっていく。
それと同時にルイの語りにも不自然な点があることに気がつく。
たとえば、冒頭でルイと妹がバスに乗っているシーン。車内は路線バスのような作りだ。巨大な門、物々しい警備を抜けて病院の敷地に入っていく。これほど頑丈に守られた施設に路線バスが入っていくことに違和感を覚える。
そういった違和感が物語のところどころに喚起され、そこに幻覚が加わることでルイの語り自体が信用できなくなっていく。


疑心暗鬼に陥った主人公の絶望と不安をその目線で体験する。そのなかでわずかな光を見つけて、違和感の正体にたどり着くのが本作のハイライトだ。



後味が悪いの大好き!
不気味な幻覚だけじゃなく、キュートなコスプレ幻覚(イラストCG)も見れちゃう!




ホラーだけじゃない!コメディ的としての一面も
本作には笑えるコメディ的な要素も数多く含まれている。
銃を片手にガスマスクを装着し、銃を片手に持った院長やキモかわなガイコツ・ゲルニのハイテンションなノリがおもしろい。


ゲルニはルイが幼少期に見ていた戦隊モノの悪役がベースになった存在。ルイにとっては恐怖と不愉快さを具現化したキャラクターだ。


口は悪いし、煽ってくるし、すぐ下ネタに走るしでしゃべりはとにかくウザったい。
しかし、ルイが考えたデタラメな儀式を一緒にやってくれるシーンもあり、どこか憎めない悪友のようで徐々に愛着が湧いてくる。


コメディ的なシーンによって物語に軽快さが生まれている。それと同時にダークなストーリーが重くなりすぎず、ライトに楽しめるホラーになっていた。
追加要素(IFルート)でほっこり
今回KEMCOからリリースされるにあたっての追加要素としてIFルートが収録されている。
ルイがリザ、モネと3人で海水浴に行く様子が描かれており、本編で荒んだ心が和むエピソードだった。


プレイ時間は本編1時間、IFが10分程度で気軽に遊べるボリュームだ。
総合評価
『妄想凶ザナトリウム』は現実と幻覚が入り混じっていくサイコホラーノベルゲームだ。
目に見えているものや語られることは真実なのか否かがあいまいになっていく描写には主人公の設定が活かされており、ストーリーが進むにつれて不気味さを増す。物語に仕込まれた違和感を積み上げていくことで真相にたどり着くミステリー的なストーリーに面白さがあった。
コメディ的なシーンが清涼剤としての役割を果たしており、ホラーとコメディのバランスも良かった。
ホラーファンとしては刺激が弱く、物足りなさも感じたが、ホラーが苦手でも楽しめる作品と言えるだろう。
- 物語の序盤から仕込まれた違和感
- 後味の悪さ
- 憎めない悪友・ゲルニ
- コメディ要素が強い
- ホラーとしての刺激が弱い
『妄想凶ザナトリウム』
- 対応機種:Nintendo Switch、PlayStation 4 & 5、Xbox One & Series X|S、PC(Steam)
- 発売日:2024年10月26日
- 開発元:KEMCO
- 発売元:ぱげらった
- ジャンル:ホラーアドベンチャー
- 筆者プレイ時間:1時間15分
- レビュー時のプレイ機種:PC (Steam)
※2024年4月22日時点



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このページで使用している『妄想凶ザナトリウム』のゲームキャプチャ画像はKEMCO / ぱげらった の著作物です。転載、配布等は禁止いたします。