『クリーピーテイル3:イングリッドの罪滅ぼし(Creepy Tale 3: Ingrid Penance)』は地獄からの脱出を目指すホラーアドベンチャーゲームだ。
クリーピーテイルはアンデルセン童話やグリム童話に触発されたアドベンチャーゲームシリーズであり、本作はアンデルセンの『パンをふんだ娘』を下敷きにしている。
高慢さゆえに地獄に落ちた少女・イングリットが口の悪い悪魔とともに地獄をめぐり、元の世界へ戻る方法を探す。イングリットの性格の悪さや難易度の高いパズル、恐怖に慄くステルスなど、見どころのある作品であった。
この記事では『クリーピーテイル3:イングリッドの罪滅ぼし』のレビューをお届けする。
『パンをふんだ娘』
ゲームについて語る前に、本作の基となっているアンデルセンの童話『パンをふんだ娘』に触れておきたい。
貧しい家に生まれたイングリットは幼少期から高慢な子どもだった。見かけばかり美しく成長し、上品でやさしい家庭に奉公にいっても、性格の悪さは直らない。
ある日、イングリットは奥様から帰省を許され、土産にパンを持たされる。その道中で水と泥にあふれた沼地を通ることとなり、服と靴を汚したくないために、沼にパンを投げ入れ、踏みつけて進もうとする。いざパンの上に乗るとブクブクと沈んで地獄に落ちてしまった。
『クリーピーテイル3』ではイングリットがパンを持っていくところからはじまる。泥の水たまりにパンを投げ入れたイングリットは開始から数分で地獄行きだ。地獄の醸造所に落ちた後、魔女と出会うあたりまで童話『パンをふんだ娘』をなぞる形で物語は進み、それ以降は独自の解釈で地獄を描く。

ちなみに『パンをふんだ娘』はNHK「こどもにんぎょう劇場『パンをふんだむすめ』」が”トラウマになる“と話題にのぼったことがあり、筆者も2019年の再放送を視聴した。
「パンをふんだむすめ パンをふんだむすめ パンをふんだ罪で 地獄に落ちた」とひたすら繰り返されるオープニング曲が強烈で、肝心の物語の記憶は吹き飛んでしまった。不気味な旋律がいつまでも耳に残る迷曲だ。
レビュー
高慢なイングリットに愛着が湧く理由
アンデルセンの『パンをふんだ娘』は謙虚であることの大切さを教訓とする物語であり、それを印象づけるためにイングリットは徹底的に高慢な娘として描かれている。それは本作も同様だが、視点が異なる。

『パンをふんだ娘』で地獄に落ちたイングリットの高慢さについて語るのは母や奉公先の奥様など周囲の人々だ。しかし、本作ではイングリットの地獄での行動にフォーカスしている。『パンをふんだ娘』ではあまり描かれていない部分だ。
イングリットは反省するどころか、地獄にいる魔女や怪物に食ってかかり、自分が先に進むためには平気で悪事を働く。そのブレなさは清々しいほどだ。アイテムが使えなかったときなどは「フンッ!」と鼻を鳴らして不遜な態度を全面にアピールする。私を操作しているこいつ、使えないわね!とでも言われているようだ。

こんな子どもをずっと操作するなんてストレスが溜まりそうだと思ったが、欠点がプラスに作用することもある。
地獄を旅するとき、不気味で恐ろしかったり、痛みを伴う描写のなかでイングリットはその高慢さゆえ、自信に満ちている。この少女となら地獄の悪鬼とも渡り合えそうな気がする。プレイヤーが恐怖を感じるなかでイングリットの「強さ」はプラスに働くのだ。

『パンをふんだ娘』とは別の視点でイングリットの高慢さを徹底的に描いたことで、少女が頼もしい存在になり、気がついたら愛着を感じるようになった。本来の性格を変えることなく、置かれた状況を変化させて、魅力を引き出す構成は古い文学作品の新たな見方を提示したとも言えるだろう。
歯ごたえのあるパズルと恐怖感のあふれるステルス
パズルの難易度は高め。序盤こそすぐに解が思いつくが、中盤以降は考え込んだまま止まってしまう場面が頻発した。
マップ上にあるアイテムを拾って使うだけの単純なものではなく、一見すると無関係なアイテムが有効であったり、使う順番が正しくなければ先に進めないなど、見逃してしまうようなアイテムもあり、マップではとにかくアイテムを探して、なんでも使ってみる姿勢が欠かせない。


終盤に向かうにつれて、複数の要素が絡み合うパズル要素の強い展開になり、筆者は何度も挫折した。パズル要素はおまけではなく、本作の主となるものであり、多くのプレイヤーが苦戦するだろう。困ったらさっさと攻略を見て、ストーリーを楽しんだほうが良い。

複雑なパズルが解けたときの達成感は大きいんだけど、私には難しすぎた!
イングリットの行動には選択肢があり、プレイヤーが善・悪のどちらかを選ぶ。その結果として善悪のポイントが蓄積し、エンディングが変化する。選択によって攻略手順が変わることもあり、悪のほうがかんたんに進めるパートもあるため、プレイヤーには都度悩ましい決断が求められる。





悪の行動は子どもに危害を加えるものがあったりして、心が痛むのよね……。
どんどん複雑になっていくパズルにプラスしてステルス要素も入ってくる。
さすがのイングリットも、力では地獄の怪物たちに敵わない。捕まれば即死だ。怪物たちの目を避けながらパズルを解かなければならない。
注意を払う対象がパズルと敵になるため、ストレスを感じるかもしれないが、見つかった瞬間に必死に逃げたり、隠れるポイントを使えば回避できるため、個人的にはそこまでストレスはなく、ほどよく恐怖感があってよかった。





歯を根こそぎ抜こうとするおばさんが怖すぎ!
隅々まで眺めたくなるアートワーク
本作はアートワークも特徴的だ。
不気味さを強調するように一貫して薄暗い背景でプレイヤーはアイテムを探すために隅々にまで目を凝らす。すると縫い付けられた壁や這い回っている虫など気味の悪いものだけでなく、意味深な壁画や部屋を使う怪物たちのこだわりなど意匠が凝らされていることに気がつく。


異形のものたちの仕事場には使いさしの道具が置かれていたり、ルーチンワークのために最適化された作りが見え、怪物たちの生活や仕事のようすが垣間見えるのもおもしろい。




見た目はかわいらしいイングリットや子どもたちと対比するように邪悪な表情を見せる魔女やおばさん、口は悪いがどこか憎めない悪魔のモレックなどキャラクターが個性的に描かれており、印象に残った。


BGMはダークで厳かな曲が流れたかと思えば、ゴォーと環境音だけが鳴り響くシーンもあり、本作の面妖な面を作り出す要素として欠かせないものであった。



英語だけどボイスがあるのも雰囲気あっていいね!
総合評価



総評:非常に良い
4/5
『クリーピーテイル3:イングリッドの罪滅ぼし』は奇妙で不気味なパズルアドベンチャーだ。
アンデルセンの『パンをふんだ娘』を下敷きにした物語で、基になった童話ではあまり描かれなかったイングリットの地獄での体験を中心に、古典を新たな視点で描いた。イングリットの高慢さは変わらないが、舞台を移したことで高慢さのなかに頼もしさを感じ取れたのは興味深かった。
徐々に複雑になっていくパズルは難しいものもあり、苦戦した。怖いおばさんに追いかけられつつもアイテムを探すパートはスリリングでところどころにステルス要素が設けられたことでプレイにメリハリがあった。
細部にまでこだわりを見せるアートワークや環境音を活かしたBGMは本作のダークな雰囲気作りに大きく貢献していた。
ホラーや不気味なものが好きで、やりごたえのあるパズルアドベンチャーゲームを求めるプレイヤーにはおすすめしたいタイトルだ。
- 高慢なのに愛着が湧くイングリット
- 隅々まで眺めたくなるアートワーク
- 難易度の高いパズル
ダーク
高難易度
『クリーピーテイル3:イングリッドの罪滅ぼし』
- 対応機種:PC
- 発売日:2023年3月9日
- 発売元:Creepy Brothers
- 開発元:Creepy Brothers
- ジャンル:パズルアドベンチャー
- 筆者プレイ時間:5時間
- レビュー時のプレイ機種:PC
※2023年6月28日時点



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