『Chicken Police – Paint it RED!(チキンポリス ペイント イット レッド)』はミステリーアドベンチャーゲームだ。

登場キャラクターがすべて動物というバカゲーっぽさに反して、テキストやビジュアルは極めて硬派な作りになっており、プレイしているうちにそのハードボイルドな世界観を味わい深く感じていく。
この記事ではPS4版『Chicken Police – Paint it RED!』のレビューをお届けする。
目次
あらすじ
休職中の老刑事・サニーは大晦日の夜、ある私的な捜査の依頼を受ける。最初は渋っていたが、依頼人からの手紙に妻・モリーの名を見つけると重い腰を上げた。
サニーは過去に仲違いした相棒・マーティーを呼び出し、再びコンビを組んで捜査を始めた。

サニーは依頼主・ナターシャに会うため「ツァーリクラブ」を訪れると、ステージで歌うナターシャに心を奪われる。

イブンとナターシャへの尋問から、彼らはなにかを隠していると感じた。サニーは怪しみながらもナターシャの招きに応じ、彼女の別荘に向かう。
そこで《ある死体》を見つけてしまうのだった。
会話:ハードボイルド風のテキストの魅力
会話やモノローグの文体にハードボイルド小説のほこりっぽさを残しつつ、ストーリはビジュアルで見せる形式になっているため、映画と小説のいいとこどりをしたような構成だ。

登場するのが人間ではなく、動物というのもコミカルでシャレが効いている。
たとえば第1章の冒頭、サニーが依頼主の代理人・デボラと出会うシーン。
女は暗闇の中を立っていた。外の灯りが彼女の体に縞模様を描く。その縞模様はありもしない秘密を囁きかけてくるが、いいや、彼女はシマウマじゃない。電気をつければ真実は明らかになる。(太字は筆者によるもの)
『Chicken Police – Paint it RED!』HANDY GAMES GMBH / The Wild Gentlemen
突然訪問してきた女(デボラ)の描写が、縞模様・シマウマが入ってくるだけで少し笑える。
サニーがツァーリクラブを訪れたときのモノローグ。
バーの後ろに並ぶ綺麗なボトルが、可愛い歌姫たちのハーモニーと、クリスタルグラスをカチンを鳴らす音を反射する。
『Chicken Police – Paint it RED!』HANDY GAMES GMBH / The Wild Gentlemen
キザな言葉選びが良い。私は『Chicken Police』の雰囲気が好きだ。
ゲーム内の情景は、往年のフィリップ・マーロウ映画の雰囲気を受け継いでいる。薄汚い部屋、定年間近の刑事、使い古されたコート、黒電話……。
サニーの重苦しさとは対照的に、陽気で常に銃をぶっ放しそうなマーティーを相棒に置き、バランスを取っている。

冒頭ではチャンドラーの言葉を引用し、探偵フィリップ・マーロウを模したキャラクターが登場するなどリスペクトも欠かさない。

テキストでおもしろかったのが、《人》に対するこだわり。
人間を除く動物が登場するだけに1人=1羽、人生=鳥生など人が絡む単語がことごとく変えられている。
一方、肝心の尋問パートでは脱字が多い。
たとえば、
誤)私を最初からしたでしょう
正)私を最初から騙したでしょう
漢字が抜けてしまっている。全体的には良いローカライズだが、少しもったいない出来になっている。
システム:プレイヤーを置いてきぼりにしない調査パート
『Chicken Police』のゲームシステムは定番のポイント&クリックだ。

登場動物と話したり、画面の中にあるアイテムをクリックして進めていく。そこに尋問や調査パートが加わる。
尋問
捜査中、尋問をする必要がある。
右側に表示される《焦点》《印象》の中のヒントを参考にしながら、左に出る選択肢から質問を選ぶ。
選択肢によって右下の刑事メーターが変動する。

会話内容を覚えていればそれほど間違えることはない。すべての質問が終わると尋問ランクが表示される。

調査
捜査が進むと調査パートが発生する。
調査パートはドラマなどよく見る、ボードに写真やふせんを貼って手がかりを整理する、あの方式だ。
容疑者、手がかり、アイテムのつながりを整理していく。

今までに得た情報からそれぞれを並べてピンでつなぐと4択が表示され、正解を選んでいく。
この調査パートが良い。
間違っていると「これじゃないな」というようなメッセージが出るため、間違ったまま進めることはない。
取りこぼしていたことも調査パートでまとめられるため、わからなくなってしまったプレイヤーが置いてきぼりになることもない。

えむ
推理している気分も味わえて一石二鳥

黒いジョヴァンナ
鳥だけに
マップ移動
場所の移動はマップから選択する方式だ。
タイミングと場所によっては砂時計表示の時限ポイントがある。

ミニゲーム
かんたんなミニゲームも収録されている。
敵に追われ、銃撃戦になったり、ある状況を脱出するためのパズルのようなものがある。

銃撃戦はそれほど難しくはない。失敗してもすぐやり直しができる。
静かなゲームのなかでアクセントになっておもしろい。
グラフィック:奇妙な動物たちが魅力的
『Chicken Police』の最もユニークな点は登場動物だ。
顔は動物、身体は人間、しかもリアルだ。
どう見てもバカバカしいのだが、ゲームを進めていくうちにどんどん惹きつけられる。
特に依頼人の猫のナターシャ。

他のキャラクターと同様、表情は乏しいが、ミステリアスな雰囲気としぐさや声の魅力でプレイヤーを惹きつける。
舞台もまた良い。『Chicken Police』はほとんどモノクロで進行するが、要所要所にカラーが差し込まれる。
ツァーリクラブではクラブの看板だけがカラーになっており、ネオンの表現が美しい。

キャラクターではナターシャの目だけが鮮やかなグリーンで映える。
サウンド:ジャジーなBGM
BGMはジャジーで渋い選曲だ。
特にナターシャがクラブで歌う「MY CITY IS ON FIRE」がかっこいい。
周回プレイ:収集物は少なめ
私が『Chicken Police』をクリアするまでにかかった時間は5時間半。
収集物を回収するために2周目をプレイしたため、最終的なプレイ時間はだいたい7時間だった。
収集物はオブジェクトやキャラクターを見たり、会話することで取得できる。
- 小説「チキン・ポリス」
- 世界観情報
- 個体情報
集めた収集物は手帳(メモ)やエクストラから確認可能だ。
エクストラ>アートギャラリーはゲーム内で使用された動物を見たり、収集品を見ることができる。
収集品の小説「チキン・ポリス」シリーズは2羽の活躍から作られた小説で、ゲーム内では人気を博しているという設定だ。全10巻それぞれのあらすじを読むことができる。

作中にさりげなく登場する映画ポスター。こちらは、チャンドラーの小説『さらば愛しき女よ』を映画化した『Murder, My Sweet』のパロディで、茶目っ気がある。(役者名もPOWELL→POODLEに)


黒いジョヴァンナ
カウボーイ・ビバップの引用文と、スペシャルサンクスに挙げられた渡辺信一郎を見て、なるほどと思ったわ。つまり、ハードボイルドを現代風にかっこよくやったら、こうなった!ってことね。

えむ
『大いなる眠り』村上春樹の訳で少し読んでみたけど、文章のくどくどしさがすごい。ステンドグラスのくだりだけで、あんなに書くことある??
総合評価

- ハードボイルドなストーリー
- 奇抜だが美しいビジュアル
- 誤字脱字

えむ
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ダウンロード販売のみで、パッケージ販売はなし。
このページで使用している『Chicken Police – Paint it RED!』のゲームキャプチャ画像はHANDY GAMES GMBH / The Wild Gentlemenの著作物です。転載、配布等は禁止いたします。
奇抜なビジュアルをまとったハードボイルドアドベンチャー
『Chicken Police – Paint it RED!』はハードボイルドな雰囲気が魅力のアドベンチャーだ。
無骨な主人公・サニーが相棒のマーティーとともに謎多き美女ナターシャの脅迫事件を追う。
小説風の会話やモノローグにはシャレが効いており、おもしろい。
定番のポイント&クリックにプラスして導入されている尋問パートや調査パートが、推理を盛り上げる。
コミカルな動物頭のキャラクターたちはストーリーが進むにつれ、どんどん人間臭い魅力を感じさせる。
モノクロメインのビジュアルとジャジーなサウンドが物語の世界観を高めている。
プレイ時間は5-7時間と短く、ミドルプライスらしく程よいボリューム。
ノワール、ハードボイルド映画風の世界観を味わいたい大人におすすめのタイトルだ。