壊れかけた世界を修復するために、高校生たちが喪失と向き合う青春アドベンチャー『Until Then』レビュー

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『Until Then(アンティルゼン)』評価・レビュー・感想

『Until Then』は、フィリピンをモデルにした世界で、高校生のありふれた日常が少しずつ奇妙なものに変わっていくアドベンチャーゲームだ。

友人とメッセージアプリでやりとりしたり、急いで課題を片付けたりしていた平凡な日常は徐々に変質していく。デジャヴを感じるクラスメイト、失踪する子どもたち、混乱していく記憶。美しいドット絵とSNSやメッセージアプリを使った巧みなストーリーテリングが、その不穏さを際立たせる。

この記事では『Until Then』Nintendo Switch版のレビューをお届けする。

本記事はBeep Japanの提供で作成しています。

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えむ

寝る間を惜しんでゲームをしてしまう中年ゲームレビュアー。アドベンチャーゲームはミステリーからホラー、ギャルゲーまで幅広く嗜む。マニアックなゲームが大好物。当サイトのほか、SLGレビューサイト「えむシティーズ」、百合ゲーム専門メディア「ゆりりかる」も運営している。

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課題に追われ、SNSに入り浸る。高校生の何気ない日々が少しずつ変化していく

舞台はフィリピンをモチーフにした架空の都市。国内では大災害に遭った地域もあり、落ち着かない日々が続いている。

主人公のマーク・ボルハは、どこにでもいる高校生だ。課題を忘れてクラスメイトにつめられたり、親友たちとふざけあったり。出稼ぎのため、離れて暮らす両親のことを思うと少し寂しくなることもあるが、そこそこ楽しい日々を過ごしていた。

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そんな日常は、転校生のニコールとの出会いをきっかけに変わりはじめる。覚えのない記憶や説明のつかない違和感が、マークの日常に影を落としていく。

本作は横スクロール型のアドベンチャーで、家や学校を歩き回ったり、オブジェクトに触れたりすることもあるが、基本的にはテキストを読み進めていくのがメインだ。テキストは吹き出し方式の短文で読みやすく、メッセージアプリを活用することも多い。

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シャツのボタンを留めたり、駅の券売機で切符を買ったり、寝る前にベッドでSNSをやってしまったりと誰にでも経験のある動作を合間に差し込むことで、物語のなかでマークとして暮らしている感覚が自然と生まれてくる。

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ミニゲームも複数用意されている。屋台でフィッシュボールを串で刺したり、お祭りのテキ屋で遊んだりと、ひとつひとつは短いが、テキスト主体の本作にメリハリが生まれ、ちょうど良い気分転換になった。

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この先、一部ネタバレあり。

明らかになるデジャヴの正体。どんどんおもしろくなる物語

物語はマークが目覚まし時計を止めるところからはじまる。通学中にメッセージアプリで委員長のルイーズとやりとりして、忘れていた課題のスライドを友だちのライアンと急いで仕上げる。ありふれた日常の風景だ。

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気持ちよさそうに寝ているマーク

その日常はわずかな綻びから変質していく。雨がやんだというルイーズと、ここ1ヶ月雨が降っていないというマーク。よくある勘違いのようなことを発端に、ルイーズから「デジャヴ」のようなものを感じていると告白される。

その後、マークはまだ会ったこともない転校生の名前に聞き覚えがあるような奇妙な感覚を覚える。

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聞き覚えのある転校生の名前にマークは動揺を見せる

少しずつ積み上がっていった違和感は、マークが見舞いに訪れた病院での出来事で決定的なものとなる。

さっきまでいたはずの大勢の人たちが忽然と消え去り、廊下にはマネキンや祭壇が並ぶ。階を移動するごとに廊下はグチャグチャに崩れていく。まるでホラーゲームの世界に入り込んだような恐怖を感じた。それ以降、画面が歪む演出とともにマークの身にも異変が起こりはじめる。

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どんどん不気味になっていく廊下

マークとルイーズはデジャヴを感じる者同士で協力しはじめ、ルイーズの仮説を基に検証を試みる。しかし真相に辿り着く前に決定的な出来事が起こり、プレイヤーはそれを受け入れられないまま、エンディングを迎えてしまう。画面にはCONTINUE? YES・NOの表示。マルチエンディングなのかとYESを押してみると、また同じ日常がはじまる。メッセージアプリでルイーズから連絡がきて、スライドをライアンと仕上げて……となるはずが、スライドを手伝ってくれるのは親友のキャスだった。このあたりでプレイヤーは気づくはずだ。このゲームがループものなのだと。

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1周目で課題を手伝ってくれたのはライアンだったが、2周目はキャスだった。

当初はプレイヤーだけがループを知る存在だが、やがてマークやニコールも気づき、ループを終わらせようと試みる。周回プレイのようで退屈になるかと思いきや、2周目以降は変化を感じさせる重要なシーンを拾っていくため、まったく飽きない。むしろ、ループが終わった先にあるマークたちの未来がどんなものになるのか気になって仕方がない。筆者はSFやループものがそれほど得意ではないが、そんなことはどうでもよくなるぐらいに熱中してしまった。

喪失を受け入れることの難しさと対話がもたらすもの

本作が描いているのは、対話の力と、喪失から立ち直ることの難しさだ。

マークの両親は出稼ぎに出ていて、父からは支払いの連絡や近況のメールが届くが、母からの連絡はない。マークは母が演奏していた曲をピアノで弾き、母のためにピアノが上手くなりたいと思っている。それなのに、母の影がまったく見えない。嵐のなかを飛ぶ飛行機のインサートが入ったあたりで、もしかしてマークの母はもういないのかもしれないと思った。

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母がピアノで弾いていた曲は物語のなかで大きな意味を持つ

物語を追っていくと、マークが母のいない現実を受け入れられずにいるのだとわかってくる。母が乗った飛行機は見つかっておらず、周りの人にもそのことを隠している。頼りの父は近くにいない上に、父もまた現実を受け入れていない。親友のキャスやリデルにも打ち明けられず、重荷をひとりで背負って生きる姿は見ていてツラかった

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マークはギリギリの状態まで追い込まれていた

転校生のニコールも同じだった。親友のジェイクがある日突然いなくなり、何をするにも心のどこかにはジェイクがいる。得意だったピアノはジェイクを思い出してしまうから、もう弾きたくない。そんななかで、ニコールはマークと出会った。

ふたりの出会いは廊下で派手にぶつかる最悪なものだったが、会話を重ねるうちに打ち解けていく。マークはニコールからピアノを教わったり、ニコールの家族と一緒にクリスマスディナーを食べたりと、ふたりの関係は特別なものになっていく。

しかし、お互いが抱える喪失とは向き合えなかった。それがループ1周目の心残りだった。

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ニコールと良い雰囲気になることもあるが……

2周目に入るとマークは、早くから母がいなくなったことを受け入れる。親友たちやニコールにも打ち明け、周囲の力を借りながら喪失から立ち直っていく

なにもかもを曝け出すのが正解とは思わない。だが、頼れる人がいることは、ひとりで暮らすマークにとって、とても大きい。

マークが母の喪失を早くからニコールに話したことで、近しい経験をした者同士としての関係性が生まれていた。対話によって相手への理解が深まれば、向き合い方も変わっていく。

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母のことを伝えようとするマーク
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ふたりはつまずきながらも対話を試みる

筆者が良かったと感じたのは、対話の難しさも描いていたことだ。

マークの親友・キャスは家庭に問題を抱えている。ループのなかでキャスを救おうとするあまり、マークはキャスが言いたくない問題まで引き出そうとしてしまい、結果的に拒絶される。

無理に聞き出すのではなく、相手が話したいと思うまで待つこと。それこそが「対話」なのだと改めて感じたエピソードだった。

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マークはキャスが抱えている問題を聞き出そう躍起になる
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今までにないほど怒りを見せるキャス

書いては消すメッセージに映る揺れ動く心、SNSが補完する物語の奥深さ

本作で特徴的なのはSNSとメッセージアプリの使い方だ。

SNSでは投稿に付いたコメントも読めるし、いいねも押せる。シェアされたニュース記事も実際に読める。すぐに閉じてしまうこともできるが、ぜひじっくりと読んでほしい。

友人たちの投稿からは彼・彼女らの日常が垣間見えるし、ニュース記事からは災害の状況や政府の動きがわかる。ウェブ記事はコメント欄まで作り込まれていて、つい読み込んでしまう。

物語の本筋に全部載せればテンポが崩れかねない情報を、SNSという形で切り出して世界観を補完する。巧みなストーリーテリングだ。

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親友・リデルのポスト見ているマーク
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記事の下に表示される関連記事を次々と読んでいく体験もリアルだ
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さまざまな主張が並ぶコメント欄

メッセージアプリの演出もおもしろい。マークがメッセージを入力するとき、一度書いたテキストを消して何度も書き直すことがある。最初に書いた本音をそのまま送っていいのか考えた末に、言葉を変えて送信する。この書き直しの過程がモノローグのように機能していて、マークの心の内を表現する重要なツールになっている。

送信前に選択肢が出ることもあり、相手のことを考えてどれを選ぶか悩む感覚は、実際にメッセージをやりとりしているようだった。

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ボタンを押した分、文字が入力される

美しいドット絵も魅力のひとつだ。呼吸するたびにキャラクターが上下する動きは少しオーバーに感じるが、座っているだけでも足を動かしたり、テーブルをトントンしていたりと細かい。

キャスのようにさまざまな表情を見せてくれるキャラクターには愛着が湧いてくるし、画面いっぱいに描かれるシーンは見ているだけでも楽しい。

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マークとキャスのやり取りは楽しい
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滴り落ちる雨が美しいシーン

意外と苦戦するミニゲーム、終盤まで止まらないプレイ体験

作中のミニゲームは思ったよりも難易度が高い。

屋台やお祭りのミニゲームは楽しいが、苦労したのはピアノの音ゲーだ。ボタンは4つしかなく、そこまで忙しくはないが、日ごろ音ゲーをプレイしない筆者はなかなかに混乱した。

マークがピアノを弾くシーンは物語上でも重要なので、演出を味わいたいのに音ゲーに集中しなければならないジレンマもあった。ただ、ミニゲームの成否は物語に影響しないので、気負わず遊べる。

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ロード時間の長さと、時折数秒ほど進行が止まる引っかかりは気になった。細かなバグも見られたが、すでに一部は修正されており、今後の改善に期待したい。

筆者のプレイ時間は17時間半。終盤までダレずにプレイできた。エンディングは賛否がわかれるかもしれないが、それまでの体験が色あせるようなものではない。マークたちと過ごした時間は、それだけで十分に価値があった。

総合評価

『Until Then』は、喪失と向き合い、対話を通じて乗り越えていく高校生たちを描いたアドベンチャーゲームだ。

日常がループによって変質していく構成は先が気になって止められない。マークたちが喪失を受け入れ、対話を通じて前に進んでいく姿が強く心に響いた。SNSやメッセージアプリで世界観を補完するストーリーテリングと、表情豊かなドット絵の演出が、物語への没入感を高めていた。

青春ものやSFループものが好きな人にはぜひプレイしてほしい一作だ。

グッドポイント
  • ループを駆使した飽きさせないシナリオ
  • 対話の力と難しさを描いた物語
  • SNS・メッセージを活かしたストーリーテリング
ウィークポイント
  • 難易度の高いミニゲーム
  • ロード時間の長さと動作の不安定さ

『Until Then』

  • 対応機種:Nintendo Switch、PlayStation5、Xbox Series X|S、PC
  • 発売日:2026年3月26日(Switch)、2024年6月26日(PS5 / Steam)2026年4月24日(Xbox Series X|S)
  • 開発元:Polychroma Games
  • 発売元:Beep Japan(Switch / PS5)、Maximum Entertainment(Steam、Xbox Series X|S)
  • ジャンル:SFアドベンチャー
  • 筆者プレイ時間:17時間30分(エンディング到達まで)
  • レビュー時のプレイ機種:Nintendo Switch 2

※2026年5月8日時点

えむ

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