探偵小説の中にトラベルミステリーというジャンルがある。観光地など旅の情景を活かしたストーリーは、2時間ドラマなどでおなじみだ。
『Root Film』はミステリーアドベンチャーゲーム。
島根を舞台に、映像監督である主人公が殺人事件の捜査に関わる。
共感覚、マックスモードなどのシステムを駆使して刑事さながらに事件を解決に導く、いわゆる探偵モノだ。
シナリオは『クロックタワー』『御神楽少女探偵団』の河野一二三氏、キャラクターデザインは『ラブプラス』『LoveR』の箕星太朗氏が担当している。
この記事ではPS4版『Root Film』のレビューをお届けする。
ジャンル | ミステリーアドベンチャー |
メーカー | 角川ゲームス |
プラットフォーム | Nintendo Switch PlayStation 4 |
発売日 | Switch:2020年7月30日 PS4:2020年7月30日 |
- ライトなミステリーを楽しみたい人
ストーリー(あらすじ)
映像作家の八雲凛太朗(八雲MAX)は数年前に「アジア・フィルム・コンベンション」で賞を取って以降、くすぶっていた。
ある日、知り合いのプロデューサーから島根を舞台にしたミステリードラマのプロジェクトを任される。
そのプロジェクトは10年前に企画されたが、ある事件をきっかけとしてお蔵入りしていたものだった。
八雲は次々に起こる殺人事件に巻き込まれながら、10年前の事件の真相に迫っていく。
クリア時間は12時間程度、ボリュームの多い全7話構成
『Root Film』は八雲とリホ、2人の主人公がいる。
八雲編は5話、リホ編は2話と全7話が収録され、それぞれで事件が起こり、主人公が解決するストーリーとなっている。
各話の事件を捜査しながら、その裏にある大きな事件を解き明かしていく構造だ。
各話1~2.5時間ほどのプレイ時間で、ドラマを見るような感覚で気軽にプレイできる。
筆者は12時間ほどで全シナリオをクリアした。ボリューム面は満足できるものだった。
推理がかんたんすぎて物足りないストーリーと脚本
『Root Film』はミステリーと銘打っているため、ゲームの肝はストーリーと脚本だ。
ミステリーにおいて大切なポイントは
- 犯人
- 動機
- トリック
この3つだ。
良質なミステリーは手がかりを小出しにしながら、読者に3つの謎を推理させる。
推理小説の中には解決パートに進む前に《読者への挑戦》として、今までの証拠を基にして事件の真相を解き明かすように仕向けてくるものもある。
筆者はいつも分からずに解決編を読んで「あーなるほど」となるタイプだ。
そんな筆者にとっても、このゲームの謎解きはかんたんすぎた。
各話がはじまって登場人物が出揃ったあたりで、すぐ犯人の目星はつく。
トリックも中盤ぐらいでほとんど分かってしまう。
過去に触れた小説や映像作品で同じような設定を見たことがあるため、意外性がないからだ。
唯一残される謎は動機だが、これが弱い。
え?そんなことで人を殺してしまうの?というものが多く、事件が解決しても釈然としない。
動機の弱さにはとある理由が隠されていることが、終盤で判明するのだが、それが分かったとしてもちょっと厳しい。
たまに推理小説や2時間ドラマを見る程度の筆者でもかんたんに推理できてしまったため、物足りなく感じた。
ミステリーに全くなじみがない人、ドラマを見るような感覚でプレイしたい人には合うかもしれない。
おすすめの攻略順
物語の流れをキレイに感じたいのであれば、以下の攻略順をおすすめする。
- 八雲編1話
- 八雲編2話
- リホ編1話
- 八雲編3話
- リホ編2話
- 八雲編4話
- 八雲編5話
この順でプレイすると話の繋がりがスムーズで大筋のストーリーも理解しやすい。
演出が大袈裟な共感覚とマックスモード
『Root Film』のプレイの流れは、
- マップから行き先を選ぶ
- 登場人物に聞き込みをする or 場所を調べる
これを繰り返して、ストーリーを進めていく。
そして事件解決のためには3つのシステムを使う。
- ポイント&クリック
- 共感覚
- マックスモード
ポイント&クリックはアドベンチャーゲームの定番システムで、部屋のなかで気になるものをクリック(選択)して進めていくシステムだ。
次に共感覚はこのゲーム独自の呼び方で、主人公が登場人物たちとの会話から気になる部分を感じ取り、記憶するシステムだ。
(手がかりを記憶するために大袈裟な名前を付けているだけで、実質は単なるメモであり、共感覚の要素はない)
そして最後がマックスモード。
主人公が今まで共感覚で集めた情報を使って、容疑者に詰問していくシステムだ。
情報は複数あるなかから、正しいものを選べば真相解明されるが、間違えるとゲームオーバーになる。
とはいえ一度間違えると終わりというわけではなく、リカバーもできるし、ゲームオーバーから再トライまでの時間も短い。
共感覚とマックスモードはプレイヤーが推理しやすくするために導入されているシステムだが、それによってゲームの難易度が極端に下がっている。
演出としても大袈裟で、事件を解明するシリアスな場面がやたらとコミカルに見えてしまう面が多い。演出だけを見て言えば『逆転裁判シリーズ』と近いものを感じだ。
キャラクターはフルボイスだが、はっきり言って棒読みの人もおり(本人役の人はともかく)、安定しているベテランとの差が浮き彫りになっている。
これもゲームへの没入感が失われる要因の一部となっている。
キレイな島根の風景と工夫を凝らした豊富なイラストCG
『Root Film』では島根県内の観光名所などを巡って事件を解決する。プレイヤーは美しい背景を楽しみ、旅行気分を味わえる。
このゲームでこだわりを感じるところは立ち絵だ。
アドベンチャーゲームでよくあるのは、背景があり、そこに立っている登場人物がいて表情や仕草が変わる程度だ。
『Root Film』には数多くのCGが収録されており、立ち絵を使う比率が少ない。
さらに見せ方もボックス型のパーツに登場人物をはめ込んでみたりと工夫が凝らしてあり、見ていておもしろかった。
八雲編の途中で季節が変わると登場人物たちの服装が夏服になっていたりと、細かなところにもこだわりを感じた。
しまねっことネゴシックスなどコミカルな要素あり
『Root Film』は殺人事件が起こるシリアスなゲームだが、登場人物たちの掛け合いはくだけたものが多く、至って明るい。
作中で探偵モノアニメに言及したり、危機的な状況で『孤独のグルメ』のパロディーが出てきたりとシャレがきいたものもシナリオに組みこまれている。
島根のゆるキャラ《しまねっこ》が変なところから登場したり、島根出身の芸人《ネゴシックス》が突然クイズを出してきたりと若干のクレイジー感もおもしろかった。
本編の謎解きよりもネゴシックスが出す島根クイズのほうが難しい……。
総合評価
総評:まずまず
2.5/5
『Root Film』は探偵モノ、ミステリーアドベンチャーゲームだ。
複数の事件を解決しながら、より大きな事件を解決していくストーリーの構造は悪くない。
しかし、肝心の謎解きがあまりにかんたんすぎて難易度を大幅に下げてしまった。事件に重要な動機もあまりに薄く感じてしまい、没入感を損なう。
共感覚やマックスモードなどの工夫されたシステムも難易度を下げる一因だ。
どれもが惜しい出来で、せっかくの個性的なキャラクターや映像のギミックが活かせていない。もったいないクオリティーになってしまっている。
テレビドラマを見るような感覚でライトなゲームをプレイしたい人に向いている。
- グラフィック面の凝った演出
- ストーリーの二重構造
- あまりにかんたんな謎解き
- 大袈裟な演出につながる特別なシステム
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