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トップアスリートとなった主人公が、過去に母娘の間で抱えた苦悩やすれ違い、深い愛情が幻想的な雰囲気をまとって描かれている。
ストーリーは言語に頼らず、美しい映像表現だけで進行する。映像の合間にはプレイヤーが物語に関与するパートが織り込まれ、物語と関わりを持つことでより感情移入でき、心揺さぶられる作品だ。
そこで本記事では『A Memoir Blue』のあらすじを紹介した後、ゲーム内容をレビューしていく。
- 幻想的な表現を好む人
- 母娘の愛に触れたい人
『A Memoir Blue』はどんなゲーム?
『A Memoir Blue』はある水泳選手が追憶にふけるアドベンチャーだ。
作中で言語は表示されず、幻想的で示唆に富んだ演出から、主人公の思いを読み取っていく。
パブリッシャーは『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』『Outer Wilds』をリリースしているAnnapurna Interactive。
ニューヨーク発、現在は多国籍スタジオである、Cloisters Interactiveが開発を行っている。本作は同デベロッパーの処女作だ。
ジャンル | アドベンチャー |
発売元 | Annapurna Interactive |
開発元 | Cloisters Interactive |
プラットフォーム (ストアリンク) | Nintendo Switch PlayStation 4 Xbox One PC(Steam) |
日本語対応 | ◯ |
発売日 | Switch:2022年3月25日 PS:2022年3月25日 Xbox:2022年3月25日 Steam:2022年3月25日 |
プレイ時間 | 1時間 |
あらすじ(ストーリー)
主人公は水泳選手。テレビには気が乗らない自分がメタルを手に持ち、取材を受ける様子が映し出されていた。

テレビを消し、サイドテーブルの古いラジカセに手を伸ばす。

ラジオのチャンネルを合わせると、世界に変化が訪れて……。

『A Memoir Blue』レビュー
『A Memoir Blue』をプレイして、印象に残った部分を紹介したい。
言葉より”雄弁”に語るストーリー描写
『A Memoir Blue』では主人公が過去を追想する過程が2Dと3Dの組み合わせで描かれる。
アニメーションで描かれる過去の母娘の姿(2D)を現在の主人公(3D)が追いかけていくような作りだ(この切り分けが終盤にある出来事をより効果的にしている)

プレイヤー自身が操作するパートと映像を見るパートを繰り返し、作品は進行していく。
たとえば冒頭では夫婦が口論し、母娘が家を出るまでの過程がアニメーションで描かれる。
その後、プレイヤーは実際に電車の切符を購入し、改札を通るまでの流れを操作する。無事に改札を通れたら、ストーリーが進む。

3Dの世界に2Dのキャラクターを入れることで、一つの画面のなかで過去と現在を同時に描いてもそれらを明確に区別できる。

楽しそうに笑う幼少期の主人公。それを見て複雑な表情を浮かべる現在の主人公。
演出の工夫により、プレイヤーは現在と過去から2つの異なる感情を受け取り、主人公の心情に深く共感する。
言語に頼らない作りが、より没入感を高めている。
日本語にローカライズされているが、筆者が日本語を見たのはオプション画面だけ。作中では言葉がほぼ使われず、キャラクターがしゃべることもなければ、テキストを読むこともない。
冒頭でスマートフォンに表示されるメッセージも記号化されており、その内容を読み取ることはできない。

そのため、キャラクターたちの会話は一切分からない。説明らしきものもない。そこが良い。
現在と過去が入り混じった空間をたゆたい、想像力をフルに働かせながら、幻想的な世界観を味わう。
本作はノベルゲームではなく、インタラクティブなアドベンチャーだ。プレイヤーは物語世界に存在するオブジェクトに少し手を触れる程度。
しかし、能動的な部分を最小限に止め、紡がれる物語に注視できる。
むしろ言葉がない分、キャラクターの表情や立ち居振る舞いを観察し、その感情を探っていかなければならない。そのおかげで、作品に深く入り込めるのだ。


クリアまでのプレイ時間は1時間。あっという間に終わっちゃったけど、良い余韻を味わえたよ!
物語を止めないゲームシステム
本作はポイント&クリックシステムを採用している。
ストーリーが止まった場面で画面内のオブジェクトを適切に操作し、再びストーリーを動かしていく。
紙をめくったり、コインを入れるなどシンプルなものが多く、難易度は低い。


筆者がXbox Series Sでプレイしたところ、LB/RBボタンを押すとポインターが対象のオブジェクトに移動する仕様になっており、操作に迷うことがなかった。
スムーズに進められるため、ストーリーがテンポよく進み、集中が削がれない。
操作がゲーム性を出すための単なる「作業」でないところも良い。ストーリーの一部として自然に組み込まれ、物語の進行をサポートするような形だ。
先述した《家を出る→改札を通る→電車に乗る》場面では、改札を通るパートがプレイヤーの操作部分。自分が主人公となってストーリーの一部を体験している気分をあじわえる。
環境を生かしたものでは、つり革の支柱についた水滴が紙面に落ちて徐々にイラストの全容が見えてくる演出もよかった。


プレイヤーは水滴を垂らす位置を決められる。
どこに垂らしたとしてもストーリーに変化はないが、どこから見ればいいのだろう?この下には何が描かれているのだろう?とスクラッチを削るようなワクワク感があった。
幻想的な雰囲気を支える音楽
BGMは環境音やシンプルなインスト曲がメインだ。
どの楽曲、環境音も雰囲気作りに貢献しており、音楽の使い方、曲のクオリティも高い。


インスト曲は音数を減らし、音の響きを活かすことで、幻想的な雰囲気を支えている。
かと言って楽曲に頼り切りにならず、あえて環境音のみに絞って見せるシーンもあり、音楽でごまかそうとしない姿勢は素晴らしい。
重要なポイントで流れる女性ボーカルの曲も良い。
数は多くないが、声が入ることによってプレイヤーをハッとさせる効果を生み、場面の切り替わりにメリハリを与えている。ゲームのBGMとしてだけでなく、音楽としても優れている。



サントラ買った!
『A Memoir Blue』総合評価



総評:傑作
5/5
『A Memoir Blue』は母娘の愛情の物語を描いたアドベンチャーだ。
過去の母娘を2Dで現在の主人公を3Dで描き分け、1つのシーンにまとめて映し出すことで、プレイヤーは主人公と一体となってストーリーを体験できる。
言語に頼らない描写や素晴らしい音楽による演出、作業的ではなくストーリーと地続きのプレイヤー操作パートは物語のすべての味わうために作られていた。
ストーリーに説明を求めるプレイヤーには向かないが、想像力をはたらかせ、幻想的で美しいストーリーを体験したいプレイヤーにはおすすめだ。ぜひプレイしてほしい。
- 2Dと3Dを巧みに組み合わせたストーリーテリング
- 幻想的で豊かな表現
- 巧みな音楽の使い方
- 特になし



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このページで使用している『A Memoir Blue』のゲームキャプチャ画像はCloisters Interactive / Annapurna Interactiveの著作物です。転載、配布等は禁止いたします。